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米国に新手の金融機関が登場 素人直取引のネット金融が話題に 「投資ではなくギャンブルだ」と批判の声も

2006/05/22 17:51

週刊BCN 2006年05月22日vol.1138掲載

 新しい融資システムの音頭をとっているのはサンフランシスコのベンチャー「プロスパー」である。eLoan共同設立者クリス・ラーセン氏がハイテク起業家と今年2月に開設した金融競り市場Prosper.comでは、低金利でお金を借りたい人と高金利で貸したい人が集まりモノは試しと励んでいる。

 「これまで金融機関が金利や借り手を一方的に決めてきた結果、マージンが膨れ上がり、儲かるのは分かっていても誰も金融市場に参入できない状況が生じた。人々の手に消費者金融を取り戻し、“人による人のための市場”を創り出すのが当社の役割」とラーセン氏。彼が考え出したのは「みんなで貸したら怖くない」のリスク分散&共有型モデルである。

 ともあれサイトはネットオークションそのままだ。面白いのが解説欄で、「婚約指輪を買うお金が!」「借金を清算して人生やり直したい!」「学費」「事業資金」「倒産の危機」「敷金」など、ありとあらゆる人生模様が繰り広げられている。正直そうな顔写真があるとビッドが多いのは人情の弱み?それとも強みだろうか。

 さてビッド。例えば「駆け出しの商売に2500ドル要るのだが、心臓手術の医療費25万ドルを背負って自己破産したため銀行は貸してくれない。クレジットカードは金利29%で賄えない」というAさん。Aさんは①融資期間②金額③利息最大値④借金に至った経緯を入力、発表する。すると、画面の向こうで見ていたBさんがAさんの提示条件を吟味し、①融資額②金利を入札する。

 あとは締め切り後、低い金利から順に寄せ集めてAさんに貸し、返済は毎月Aさんの銀行口座から債権者のプロスパー口座に振り込まれていくという流れ。決済はすべてプロスパーがやり、融資額の1%がその手数料だ。4月5日現在エントリーは1541件。

 Aさんはノラ・ペニックさんという実在の人である。ある財務プランナーは「道で他人に1万ドル貸してと頼まれても貸す人はいまい。プロスパーは投資ではない、ギャンブルだ」とテレビで批判したが、小口に分散するせいか被害はあまり聞かない。ノラさんは「金融機関が見るのは数字だけ。お金を貸してくれたのは赤の他人の皆さんでした」と、プロスパー・マジックで社会の見方が変わったと話している。

 米国の金利は銀行預貯金が年率4.5%。銀行ローンは19.25%で、クレジットカードは22.74-31.74%。プロスパーの金利は7.9-20%でかなり有利だ。開設間もないせいか10-100ドルの小口が今は主流となっているようだ。

 信用度を高め交渉を有利に進めたい借り手はきちんと返済する人同士でグループをつくることも可能で、その場合は推薦の見返りとしてリーダーには金利の0.5%を払う。ここが欧州で昨年開設したZora.comとの大きな違い。Zoraは借り手が思ったように集まらず、かなり苦戦しているようだ。

 「要するに人に任せたほうが金融機関よりうまくやるってことです」とラーセン氏。同社は2月に第2ラウンドの投資1200万ドルを調達した。消費者金融を脅かす存在になれるだろうか? 今後の動向に注目したい。
市村佐登美(ジャーナリスト)
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