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中国 Web2.0時代を襲う疲弊の波 収益モデルの発掘に四苦八苦 生き残りをかけ、暗中模索が続く

2007/03/26 19:58

週刊BCN 2007年03月26日vol.1180掲載

【北京発】かつて、中国でもIT業界というのはハイテクかつインテリジェンス型産業であった。ところが、今ではいわゆる「民工」たちと同じように、過度な肉体労働を強いられる職業だと考えられている。長時間パソコンに向かうデスクワークによって、頸椎症や腰椎症、神経痛や視力の低下だけでなく、自閉症など精神面も脅かされる。

 北京市の西側に位置し、中国版シリコンバレーと称される「中関村」。IT企業が集まるこの地には、ひときわ目立つオフィスビルがある。その名も「国際理想大厦」。中国最大の検索エンジン百度(Baidu)や中国最大のポータルサイト新浪(SINA)が拠点を置く。

 この北京拠点には、両社合わせて1000人超の人員がいる。人数が増え、会社の規模が大きくなると、自身が働く会社や関連商品について知識を持たない従業員が増加する。自社の提供サービスが何かを知らない者も少なくない。

 頭脳派から肉体労働者へ、新たな「民工」の誕生を象徴しているようだ。

 このような現象が起きた要因は、単純にいってしまえばIT業界の競争が激しくなったためだ。しかし、細かく見ていくと、中国のIT業界が抱える苦悩にその根源が求められる。

 百度の李彦宏CEO(最高経営責任者)は、勤勉で知られている。しかし、ナスダック上場などのサクセスストーリーが華々しく取り上げられる一方、百度内部のごたごたも漏れてくる。2004年から、ともに百度を築いてきた経営陣が続々と百度を去った。起業者の一人である徐勇氏やCTO(最高技術責任者)の劉建国氏、主任設計士の利民氏、エンジニアの雷鳴氏らの離職は、メディアでも大きく報道された。また、06年には「MP3著作権裁判」や「百度の警備員による女性殺害事件」が起こった。さまざまな問題が李CEOと百度の肩に重くのしかかっている。

 しかし、これはあくまでも一例にすぎない。経営陣だけでなく、中国IT企業のエンジニアも混乱の度を増している。しかし最も大変なのは、多忙な日常業務に加え、いかに利益をあげるか、その明確な答えが見つけ出せていないWeb2.0運営の企業経営陣たちだ。

 一つの成功モデルができると、同じようなサービスを提供するサイトが雨後の筍のように現れるなか、いかに利益を得るかを考えつつ、他社との競争に生き残らなければならない。

 05年、オンラインゲーム最大手である盛大網絡(SHANDA)は、一部人気ゲームの利用料を無料にすると発表、混沌とする同業界のなかで一気に他社を突き放そうとする構えだ。

 一方、オークションサイトのeBayは、一部サービスの利用を有料化すると宣言しつつ、いまだ踏み切れないでいる。インスタントメッセンジャーで有名な騰訊(テンセント)のQQでは、かつてユーザー登録を有料にしたことがあるが、MSNが中国国内でも浸透し始めたことで、再び無料に戻したという経緯がある。

 明確な利益モデルを打ち出すことができるのか、Web2.0の「寿命」はこの先あとどれくらいあるのか。将来の生き残りをかけたプレッシャーが、企業経営陣たちの肩にずっしりと重くのしかかっている。成功か失敗か。彼らにとって、ただがむしゃらに働くこと、それが唯一の成功への道なのかもしれない。

 こうした環境が、中国におけるIT人材の価値を左右する。Web2.0時代に突入した中国。勝ち組と負け組がそろそろはっきりしてくる。
齋藤浩一(サーチナ総合研究所主任研究員)
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