【上海発】私は仕事柄、ソフトウェア企業の経営者と知的財産権保護について話をする機会が多い。大手企業は知財保護のシステムができているが、中小企業は未対応なところが大半である。

 中国では、知財保護で会社と社員の「戦い」は少なくない。

 あるソフト会社の経営者から次のような話を聞いた。ひとりのプログラマが会社を辞めようとした際、退職手続きが終わる前にそのプログラマは「自分のものをコピーさせてください」と言いながらパソコンを開き、持参した記憶装置にコピーを始めた。作業が完了するとパソコンをフォーマットしてしまった。理由は自分のプライバシー保護のためだという。「会社の設備になぜ『自分のもの』が存在するのか」と、社長は怒った。するとプログラマは「社長のパソコンには、プライベートデータがないのか。これはプライバシーの問題だ」と言い返した。企業機密の情報漏えいの恐れが十分にあるが、他の社員の反応を考えて、社長は言い争いを避けた。

 中国では、近代商業文明が1980年代から始まったので、従業員のプロ意識はまだまだ低く、知財における認識も低い。例えば、給料をもらいながら会社の施設で作ったプログラムは、自分も権利を持っていると思い込み、退職時にこっそりソースコードを持ち出し、次の職場で利用する人も少なくない。このような社員が、自分の権利を大切にする一方で、他人の権利を踏みにじっていることを恥じないのは不思議だ。

 社内教育を厳しく行うことは一つの手だが、一方で、社員に嫌われれば人材が離れる恐れがある。一部の企業は監視システムを導入し情報漏えいを防止しているが、例え盗用行動が見つかったとしても、社員を解雇し、法的手段に訴えることはあまりしない。

 このように、ソースコードを持ち出している人たちは、きっと将来、マネジャーないし経営者になっていくだろう。そして彼らも、さらに若い従業員から同じことをやられるだろう。また、今の中小ソフト企業は、海賊版ソフトを利用する一方で、従業員そして海賊版業者に対しては自分の権利を精一杯守ろうとしている。悪循環ではあるが、中国国内だけをみれば、皮肉にも平等になっているのかもしれない。
魏鋒(ウェイ・フェン=ACCS上海事務所所長、shanghai@accsjp.or.jp)