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新川創新科技園 四川省・成都の新ハイテクパーク 日本企業の誘致活動を開始

2016/07/21 14:26

週刊BCN 2016年07月18日vol.1637掲載

【上海発】四川省・成都で建設中のハイテクパーク「新川創新科技園(SINGAPORE-SICHUAN HI-TECH INNOVATION PARK=SSCIP)は、2020年の完成に向けて、このほど日本企業向けの誘致活動を開始した。6月23日、上海で日系企業向け投資説明会を初めて開催。誘致活動をリードするSSCIPの胡偉雄・産業招商部総経理は、「20年までに300社の企業を誘致する。このうちの100社を外資企業としたい」と意欲を示している。

次代を担うハイテクパーク

 成都は、人口約1400万人、面積1万2000km2を抱える四川省の省都だ。中国国内では、内陸部有数の経済都市として知られており、15年の域内総生産(GRP)は前年比7.9%増の1640億米ドルと、中国全体のGDP成長率を上回る勢いで成長している。さらに近年は、グローバル化も加速。すでにフォーチューン500社のうち271社が成都に拠点を抱え、日本企業では伊藤忠商事や日立、三菱、ソフトバンク、イオンなど約400社が進出済みだ。

上海で日系企業向け投資説明会を開催

 そんな成都の市内中心部「天府広場」から15km、成都双流国際空港から12kmほどの距離に新川創新科技園(SSCIP)はある。ここは、中国西部地域初の国家級革新モデルゾーンに指定された「成都ハイテク産業開発区」の南エリアで、14年10月に設立された新たな国家級新区「天府新区」の中心部にも位置する。この産業振興における重要エリアで、SSCIPはシンガポールと四川省の合弁事業として12年に工事を開始した。開発を担当する中新(成都)創新科技園開発には、成都ハイテク地区管理委員会の完全子会社である成都ハイテク投資グループが50%、残りの50%をシンガポールのSINGBRIDGEとSEMBCORPが25%ずつ出資。ITや生物医学、環境技術、ハイエンド製造など、先進的な企業を集中させて、産業・生態・文化の各要素を融合した総合都市へと発展させることを目指している。総面積は10.34km2を抱え、将来は定住人口12万人、労働人口12~15万人を見込む。

 正式な完成は20年の予定だが、すでに進出を決めた企業の大型プロジェクトが20件ほど動き出している。このうちの13のプロジェクトはIT関連で、なかにはハードウェアメーカーの浪潮集団(Inspur)やスマートフォンメーカーの広東欧珀移動通信(OPPO)など、中国のIT大手も含まれる。

人材・コスト・市場に優位性

産業招商部総経理
胡偉雄
 胡偉雄・産業招商部総経理は、三つの観点から、SSCIPへの進出メリットを説明する。まずは、IT人材の離職率の低さだ。中国のIT人材の離職率は日本のそれと比べて高く、インターネット企業などの成長や市場拡大に伴い、上海や北京などの沿岸部では、人材獲得競争が激化している。一方、胡・産業招商部総経理によると、「IT人材の離職率は、北京や上海では10%以上だが、成都は8%にとどまる」という。離職率が低ければ、技術・ノウハウを蓄積しやすいうえ、機密情報など知的財産の保護にもつながる。もちろん、離職人材の補てんや育成にかかる業務負担も削減することができる。

 二つめは、沿岸部の都市と比べてコストがかからないこと。胡・産業招商部総経理は、「成都のIT人材コストは、北京や上海の70%程度だ」と説明する。低コストであれば、大量の人材を必要とするコーディングなどの下流工程のシステム開発を行いやすい。もちろん、オフィス賃貸料などのコストも沿岸部より抑えられる。

 三つめは、市場としての魅力だ。15年の四川省の域内総生産は4646億米ドルで、日系IT企業の多くが進出している上海市の3836億米ドルを上回る。市場拡大が注目されるASEAN地域のタイ(3738億米ドル)よりも大きく、成長率も高い。とくに、「天府新区」では大規模な都市開発が進められているため、その中心部にあるSSCIPは市場開拓の足掛かりとして活用できる。また、同じ中国本土といえど、北京や上海などの沿岸部と西部の内陸部では、文化や商慣習が異なる。現地の事情に合わせたオペレーションを行うために、「中国の東部と西部に、それぞれヘッドクオータをもつという選択肢があってもよいだろう」と胡・産業招商部総経理は提言する。

政府との連携も密接

 もちろんSSCIPでは、中国にある他のハイテクパークと同様に、税制や補助金、融資などの優遇政策を受けることが可能だ。これに加えて、胡・産業招商部総経理は、「進出する企業の要望を政府に提案して、実現に結びつけることができる」と強調する。政府系の資本が入っているため、SSCIPは政策などの情報をスムーズに収集できるほか、政府の担当者との連携も容易で、交渉がしやすい立場にある。政府と連携できることは、地の利の働かない進出企業にとって大きな意味をもつ。

 一方、中国に進出している日系ITベンダーは、このところ苦戦している企業が多く、新たな現地法人の設立や拠点の開設に踏み切るムードは高まっていない。これについて胡・産業招商部総経理は、「日本企業が現在、中国に対する投資機運が決して高くはないことは理解している」と話す。実は、SSCIPは日本企業の早急な誘致を期待しているわけではなく、現在は中国の国内企業の誘致を積極的に進めている状況だ。これは、「国内企業で、ある程度のエコシステムを構築した後に、外資系企業の誘致を活発化させる。その方が、彼らは市場開拓にあたってのパートナーを探しやすい」(同)という戦略があるためだ。

 今回開催した投資説明会は、進出の前段階として、まずはSSCIPの存在を知ってもらうことを目的に開催した。SSCIPでは、17年には日本での投資説明会も開催し、本格的な誘致活動を推進していく方針だ。
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