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「Oracle Open World 2016」開幕、ラリー・エリソン会長兼CTOが基調講演に登場、ターゲットはセールスフォースからAWSへ

2016/09/20 22:02

 【米サンフランシスコ発】米オラクルの年次プライベートイベント「Oracle Open World(OOW) 2016」が、米サンフランシスコで現地時間の9月18日に開幕した。初日には、例年どおり創業者のラリー・エリソン会長兼CTOが基調講演に登壇。オラクルは、SaaS、PaaSの順にクラウド製品・サービスのポートフォリオを整備してきたこともあり、昨年のエリソン会長の基調講演では、この二つの市場を牽引してきたセールスフォース・ドットコム(SFDC)をクラウドビジネスの規模拡大で追い抜くという趣旨の発言が目立った。しかし今回は、明確にターゲットを変え、AWSへの対抗色を前面に押し出すプレゼンとなった。AWS対抗の色彩をもつIaaS自体はすでに昨年の基調講演でも発表しているが、エリソン会長は「第二世代のIaaS」と呼ぶ新サービスを発表し、従来以上にIaaS領域に注力する姿勢を示した。

 米オラクルは、直近の2017年度第1四半期(6月~8月)の決算発表で、全売上高86億ドル中、クラウドは9億6900万ドル(前年同期比59%増)に達し、クラウドが占める割合が10%を超えたと発表している。従来の中核事業であるソフトウェアライセンスは11%減と相当な落ち込みとなったが、クラウドがそれをカバーして余りある成長をみせている。とくにSaaS、PaaSは合計で7億9800万ドルの売り上げを記録しており、これは前年同期比82%増だ。一方、IaaSの売り上げは1億7100万ドル、前年同期比7%増と、まだまだ規模も伸び率も小さい。エリソン会長は、ここをSaaSやPaaSと同じ勢いで成長させられると考えたようだ。
 

ラリー・エリソン会長兼CTO

 昨年のOOW 2015では、基調講演でエリソン会長自ら、物理サーバー専有型のクラウドサービスをAWSのサーバー共用型サービスの半額、アーカイブストレージをAWSの10分の1の価格で提供すると発表した。同時に、フォールトトレラントな設計のダウンタイムゼロのクラウドを実現するほか、データベース(DB)マシン「Exadata」をクラウドのインフラやプラットフォームに活用して、価格性能比で業界最高水準を目指す方針であることも明確にした。今回の基調講演は、まさに1年前の「予告」どおりの内容になった。

 エリソン会長は、IaaSの新しい試みについて、「新たな考え方でデータセンターを世界中に構築し始めている。リージョンごとに、比較的近い距離の三つのデータセンターを光ファイバーでつないで一つのクラスタにまとめ、同じデータを複製、共有する仕組みをつくった。単一障害点を排してフォールトトレラントなインフラを整備したということだ。リージョン間を超高速、低レイテンシで接続したDRの仕組みをつくることもできる」と説明。これを「新世代のインフラ」と定義したうえで、「こうした高い安全性、信頼性を備えているにもかかわらず、AWSの価格体系と比べて、コアが2倍、メモリも2倍、ストレージは4倍、I/O性能は10倍でもより安く提供できる。これでオラクルを選ばない手はない。AWSはこれから先、深刻な競争に苦しむことになる」と、IaaSでのAWSに対する優位性を強く市場に訴求していく方針であることを示した。
 

AWSに対して価格性能比でも優位性を示したいという

 PaaSに関するメイントピックを紹介する際にも、AWSへの強い対抗意識をのぞかせた。エリソン会長は基調講演のなかで、「PaaSは互換性と共存を重視する戦略」と話し、企業がオラクルの各種クラウドサービスと完全な互換性をもつ垂直統合型マシンを自社データセンターに置き、管理運用はオラクルが行うサブスクリプションモデルのフルマネージドサービス「Oracle@Customer Service」を拡張することを明らかにした。

 サービスそのものは今年3月に、グローバルですでに発表済みで、日本でもIaaS、PaaSの標準機能(データベース、アプリケーション開発環境、アプリケーションのインテグレーション機能など)を提供できる「Oracle Cloud Machine」の提供は今年4月に始まっているが、機能を絞ったものや、機能特化型の垂直統合マシンのラインアップを拡充した。具体的には、「Infrastructure Cloud Machine@Customer」「Exadata Cloud Machine@Customer」「Big Data Cloud Machine@Customer」の3製品を発表した。文字どおり、IaaS、データベースマシンのExadataのクラウド版、PaaSである「Oracle Cloud Platform」のポートフォリオの一部であるBig Dataソリューションの機能を提供するための製品群だ。

 エリソン会長は、「オラクルのクラウドで使っているものとまったく同じソフトとハードを、お客様のファイアウォールの内側で高速ネットワークにつなげて、しかもクラウドと同じ価格で使うことができるようになった。オラクルのクラウドアプリケーションだけを使う場合よりもパフォーマンスは高くなる」と説明。さらに、次のように続けた。

 「オラクル製品は、本当に簡単にオンプレミスとクラウドを行き来できるが、Oracle@Customer Serviceはオンプレミスとクラウドの中間であり、より多様な選択肢ができたことになる。例えばデータベースなら、オンプレミスでソフトウェアライセンスを購入する、あるいはExadataを購入するというやり方があるし、@Customer Serviceも選べる。もちろん、パブリッククラウドのPaaSでも利用できるし、AWSでもMicrosoft Azureでも使える。一方で、AWSの(DWHである)Redshiftはどうか。AWSのパブリッククラウド上でしか動かない。しかも、データを入れるのは安価にできるが、データを外に出そうとすると、とても高くつく。これを究極のロックインという人もいる。OSSを使っているからもっとオープンにできそうなものだが、彼らはそういう判断をしなかった」。

 18日の基調講演中、エリソン会長は、「昨年度、オラクルがどのベンダーよりもSaaSとPaaSをたくさん売った」と発言している。SFDCの直近(2016年1月期)の売上高が66億7000万ドル、17年1月期の業績予想が81億ドル超であるため、これがどういった基準にもとづく評価なのかは不明だが、昨年のOOW 2015でエリソン会長が宣言した「SaaSとPaaSを合わせたビジネス規模でSFDCを追い抜く」という目標は達成し、次のステップに進むタイミングだと考えているようだ。新たな標的をIaaSのトップベンダーに定め、全レイヤでクラウドビジネスの成長を目指す姿勢を鮮明にしたかたちだ。

 なお、Oracle Open World 2016の詳細は、週刊BCN紙面で紹介する。(本多和幸)
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外部リンク

米オラクル=https://www.oracle.com/index.html

日本オラクル=http://www.oracle.com/jp/index.html