ドコモ、KDDI、ソフトバンクのIoT戦略

 今後、IoTを導入する企業の増加が予測される。IoTを効果的に利用することで、製造業、運輸業、自動車関連業、社会インフラ、そのほかの幅広い分野で、現場のモノやヒトの状態を把握し、作業を効率化し、新たなビジネスの創出につなげたいというニーズが高まっている。

ありものデータの使用は失敗につながる

 IoTソリューションは、センサなどを搭載したデバイス、情報を伝達するネットワーク、情報を蓄積するサーバーやストレージ、そしてデータを分析するプラットフォームなどから成り立つ。ここでネットワーク環境の構築を担うのが通信キャリアだ。最近は、運用コストを抑えるため、MVNO(仮想移動体通信事業者)が提供する、いわゆる格安SIMを採用する流れがある。IoT時代で求められるネットワークをコストだけで選んでいいのだろうか。

 5月10日~12日まで東京ビッグサイトで開催した「第6回 IoT/M2M展春」。初日の5月10日には、ソフトバンク、KDDI、NTTドコモの通信キャリア3社が特別講演を実施。IoTビジネスの現状と各社の取り組みを紹介した。
 
201706051558_1.jpg
NTTドコモのIoT展示コーナー(IoT/M2M展春)

 IoT導入を検討している企業の理解度、意識が短期間で急激に高まっている。「導入を検討している企業の課題は、半年前はどう取り組んだらいいか、だったが、最適な環境は何か、どう効果を出すべきかと具体的なものに変わった」と話すのはソフトバンク・法人事業開発本部事業開発第1統括部IoTコンサルティング2部の吉田政人部長だ。

 これまでのIoTビジネスは、IoT機器でデータを集め、蓄積することで、データを可視化してきた。吉田部長は次のステップとして「自社で利用するか、顧客に提供するかの二つのパターンにわかれるが、データに価値をつける『価値化』へとシフトしている」と話した。ただし、価値のあるデータを創出するにはデータをどう分析するか、ではなく、どのデータを集めるかがより重要で「ありもののデータを使うのは失敗につながる」(吉田部長)と、目的に合わせたデータ収集をするべきだとした。そのため、同社は顧客とのディスカッションを重視し、新たなサービスを創出するIoT提案、ソリューション提案に力を注いでいく。

KDDI、ドコモはLPWAに注力

 ネットワーク構築に注力しているのがKDDIとNTTドコモだ。IoTに適したネットワークの条件として、KDDI・ソリューション事業本部ビジネスIoT推進本部 ビジネスIoT企画部の原田圭悟部長は、「省電力、通信エリアが広い、低速度」の三つを、NTTドコモ・法人ビジネス本部 IoTビジネス部の谷直樹部長は「省電力、低遅延」の二つを上げた。

 現在、IoTに適したネットワークとして注目を集めているのが、低消費電力で多接続を実現するLPWAネットワークだ。ソフトバンクを含めた3キャリアともLPWAの提供や実証実験を進めている。講演では、KDDI、NTTドコモの2社がLPWAの実証実験について触れた。

 KDDIは、ソラコム社が開発したシステムと、同社のIoT向け回線サービス「KDDI IoTコネクト Air」を連携させた検証キット「LoRa PoC キット」の提供を開始。検証キットを活用した事例として、神奈川県厚木市の浸水監視サービスの実証実験を紹介した。マンホールにセンサを設置し、下水道の内水氾濫による浸水監視。降雨レーダー情報と連携することで、ゲリラ豪雨などに対して的確な都市水害対策を支援する。センサは省電力設計を採用し、「電池2本で約10年もつ」(原田部長)という。
 
201706051558_2.jpg
浸水監視サービスに使われたマンホールの模型(KDDI・IoT/M2M展春)

 一方、NTTドコモはLPWAネットワーク、センサなどのIoT機器、IoT機器からの情報を管理するクラウドサーバーで構築したトライアル環境「ドコモIoT/LPWA実証実験環境」を提供。防災科学技術研究所(防災科研)と連携し、地滑り予兆検知システムの実証実験を進めており、2020年をめどに商用化する計画だ。地滑り予兆検知システムは山間部斜面にセンサと通信機能を備えた杭を設置し、データを収集・解析し、地滑りの予兆を検知する。商用化のタイミングでは杭に内蔵するセンサの性能をあえて押さえてコストを削減する予定だ。NTTドコモの谷部長は、「杭1本あたりのコストを抑え、代わりに設置する杭の本数を増やすことでデータの精度を高める」と計画について説明した。

 2社が紹介した事例はどちらも膨大なデータを集め、時間をかけて複雑な分析をするのではなく、リアルタイムの情報を集めることで即座に対応する仕組みだ。今後は、例えばウォーターサーバーの給水や、ゴミ箱にセンサを設置した効率のよいゴミの回収システムなどにも横展開が可能だ。

 IoTが生み出す新たなビジネスモデルとして、利用量課金サービスがある。メーカーがモノを売り、ユーザーがモノを所有する従来の所有権が移転する「モノ売り」ビジネスから、必要な時に必要なだけ利用する、使った分だけ対価を支払うビジネスへのシフトが今後進んでいくだろう。

 ありとあらゆるモノがセンサを備え、IoT機器になる日も遠くない。IoTは人の代わりに現状をリアルタイムに知らせてくれるシステムだ。地下や山間部など、人があまり踏み入らない場所で利用されることが増えていくだろう。その場合は、どこでも届く、電波の品質が重要になる。また、センサが送信するデータが今後大容量化していくことは想像に難くない。本格的なIoT時代の到来により、ネットワークの重要性はますます高まりそうだ。(山下彰子)