【上海発】中国の日系ITベンダーは、現地社員の離職率の高さに悩みを抱えていることが多い。終身雇用の文化が根づく日本と異なり、中国では好待遇やスキル向上を目的に転職を繰りかえすジョブホッピングの考え方が一般的だからだ。そんななか、NCS&Aの中国現地法人である恩愛軟件(上海)(呂興平 董事長総経理)は、人材定着率の向上に力を注いでいる。呂董事長は、「誰も辞めない会社を目指している」と意欲を示す。(上海支局 真鍋 武)

 恩愛軟件(上海)は、NCS&Aの主力商材である「Riverse Planet」の研究開発を主要事業としている。同製品は、複雑なシステムの構成を分析し、メンテナンスの簡易化を支援するソフトウェア。開発の多くは中国側が担当しており、その実績は約18年におよぶ。
 
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呂興平
董事長総経理

 これまで培ってきた経験・技術は、日本本社にとっても欠かせない資産だ。呂董事長は、「Riverse Planetの開発には高い専門性が求められるので、本社の技術者でも代替できない」と説明する。そのため、中国国内の人件費が高騰するなか、恩愛軟件(上海)は今後も安定した開発量を見込んでいる。

 ただし、専門性が高い開発を行うには、優秀な技術者を安定的に確保する必要がある。「技術者を一人前に育成するには3年程度かかる」(呂董事長)ため、社員の離職は最小限に抑えたいところ。そこで同社は、人材定着率を高める取り組みを推進している。

 例えば、採用活動。同社は、高い技術力と潜在力を求め、全国大学ランキングの上位50校が輩出する人材を対象に採用活動を行っているが、「ミスマッチが起きないように、長期雇用を前提とした会社であることをよく理解してもらうように努めている」(呂董事長)。中国では、インターネット企業が著しく成長しているほか、膨大な数のスタートアップ企業が生まれ、地場IT市場は高成長。多くのIT企業は、年間で30%以上の売上高の成長を目指している。一方で、恩愛軟件(上海)は研究開発拠点なので、短期間に大きく事業が拡大することはない。ただし、その分だけ安定して働くことができる。こうした自社の等身大の姿を伝え、仕事に安定を求める優秀な人材とのマッチングを図る。

 待遇面も改善した。日本向けのシステム開発を行うIT企業は、とくに人材流出に苦戦を強いられるケースが多く、この背景にはコストを抑えたい企業側と、よりよい待遇を求める社員との思惑が合致しないという問題がある。そこで恩愛軟件(上海)は、新卒初任給を高めの8000元に設定。入社後は、半年後に給与見直しに向けた評価を行う。

 安心して働いてもらうために、勤務体系にも工夫を凝らした。例えば、産休/育休から復職した社員に対しては、仕事と子育てを両立できるように、通常より短い時間での勤務を認める。結果的に、同社では女性社員の割合が大きくなっている。

 恩愛軟件(上海)では、昨年は5人、今年は2人の新卒者を採用した。現在の社員数は約30人。呂董事長は、「この1年間で離職者は1人しかいない」と成果を示した。