富士通は7月16日、カナダのAIスタートアップCohere(コヒア)と戦略的パートナーシップを締結し、コヒアの「Command R+」をベースとした日本語強化版大規模言語モデル(LLM)の「Takane」(高嶺)=仮称=を開発すると発表した。エンタープライズ向けに業務や顧客に特化したLLMとして、9月にAIサービス「Fujitsu Kozuchi」を通じて提供する。富士通では2027年までに特化型LLMの国内市場でシェア35%以上を目指す。富士通の事業モデル「Fujitsu Uvance」のオファリングにも組み込み、幅広いユースケースに適用する考えだ。
(藤岡 堯)
コヒアが日本企業とパートナーシップを結ぶのは富士通が初めてで、富士通は出資も行う。
(左から)富士通の高橋美波副社長、コヒアのエイダン・ゴメスCEO、富士通のヴィヴェック・マハジャン副社長
Takaneは富士通が持つ日本語強化用の追加学習技術、ファインチューニング技術、顧客の業種や業務に関する知見に、コヒアの領域特化向けLLM開発力や、ハルシネーションを軽減するRAG(検索拡張生成)のノウハウを組み合わせて開発される。加えて、コヒアはプライベート環境で稼働するLLMにおいて高い競争力を有していることから、富士通は金融、官公庁、研究開発部門などの高いセキュリティーが必要な顧客に対し、プライベート環境で利用できるサービスとして展開する方針だ。8月にKozuchiで提供を予定する「生成AI混合技術」によって、Takaneとほかの領域特化型LLM、既存の機械学習モデルを部品のように合わせて、業務により適した生成AIを自動生成することも可能になるという。
16日に川崎市で開かれたUvanceの説明会に登壇したコヒアのエイダン・ゴメス・共同創業者CEOは日本企業の生成AI活用への意欲は強いとしながらも、言語が大きな障壁になっていると指摘。その上で「パートナーシップを通じて、日本語と英語の間のギャップを埋め、(富士通と)一緒にテクノロジーを企業にもたらしたい」と話した。
富士通のヴィヴェック・マハジャン・執行役員副社長CTO、CPOシステムプラットフォーム担当は、コヒアとの協業に至った理由について「(コヒアのエンタープライズ特化の技術が)富士通の技術と顧客のニーズに完全に合っている」と説明した。富士通関連のLLMでは、スーパーコンピューター「富岳」を学習に用いた日本語LLM「Fugaku-LLM」もあるが、パラメーター数やそれに伴う精度、セキュリティー性能など顧客のニーズに応じてすみ分けられるとした。
Uvanceでの生成AI適用に関して、富士通の高橋美波・執行役員副社長COO(Fujitsu Uvance)兼グローバルソリューションは「自社開発とパートナーの生成AIを活用し、当社が強みを持っている混合技術、生成AIソリューションをユースケースに合わせて提供し、精度、コスト、セキュリティーにおいて最適に利用できるようにしたい」と語った。高橋副社長は、すでに複数の顧客とTakaneのユースケース創出に向けた検討を進めているとも述べた。
このほか説明会では、東京海上ホールディングスの生田目雅史・専務執行役員グループデジタル戦略総括が、Uvanceのオファリングとして共同開発したサプライチェーンのリスク可視化サービスの事例を紹介した。