キヤノンITソリューションズは、東京の西部に位置する自社データセンター(DC)で初の液冷方式によるサーバー冷却サービスの実運用を12月1日から始めた。ユーザー第1号は大手製造業のデータ分析に使う科学技術計算用のHPCで、今後は生成AIで使うGPUサーバーの冷却にも活用していく。DC事業を担当する郡田江一郎・ITサービス技術統括本部統括本部長は「SI業界の中で先駆けて液冷方式による商用稼働にこぎ着けた」と胸を張る。
郡田江一郎 統括本部長
液冷方式を新規で導入したのは同社が運営する西東京データセンター第2号棟で、従来の空冷方式の約5倍に相当するラックあたり100kVAの消費電力まで冷却が可能になるという。例えば、生成AIで使う最新のGPUサーバーの消費電力は約10kVAあり、空冷方式ではラックあたり最大2台までしか冷却できなかったが、液冷方式は10台まで冷やせるとしている。「将来的にはGPUサーバーの消費電力が14kVA程度まで増大するとみられている」と武田智史・ITサービス技術統括本部データセンターサービス本部D2プロジェクト長は予想しており、液冷方式によって集積度を高め、DCスペースの有効活用につなげる考え。
西東京データセンターの外観
(手前が2号棟)
武田智史 プロジェクト長
今回導入した液冷方式の設備は、既存の空冷設備に利用していた冷却水の一部を使って熱交換に利用している。液冷式サーバーの熱交換ユニット部分まで冷却水を引き込んで7~8割の熱を除去し、残り2~3割を既存の空冷方式で冷却する構造。武田プロジェクト長は「主要メーカーが製造する液冷サーバーに対応できる」設計にしておりマルチベンダーで受け入れが可能と話す。
空冷と液冷が同居する構造になっているため、ユーザー企業は消費電力が大きいHPCやGPUサーバーは液冷方式で集積度を高め、消費電力が少なく液冷非対応の既存サーバーは空冷方式を利用するなど柔軟な選択が可能になる。7月に液冷サービスの開発計画を発表して以降、「製造業ユーザーや大学、研究機関から高負荷サーバーを設置したいとの多くの問い合わせが来ている」(武田プロジェクト長)と液冷方式による受注拡大に手応えを感じている。DC関連事業の2025年度の売上高は22年度比で1.5倍近く伸びる見通しを示す。
吉田 啓 取締役常務 執行役員
西東京DCの1号棟はすでに満床となっているため、1号棟の倍近い15メガVAのサーバー電力供給能力があり、空きスペースがまだ残っている2号棟で液冷方式を導入した。次の3号棟(仮称)については「さまざまな選択肢を検討している段階」(吉田啓・取締役常務執行役員)とし、電力の調達方法や立地、技術革新のさまざまな要素を考慮して投資していく考え。
(安藤章司)