住友商事は10月29日、グループSIerのSCSKに対して株式公開買付けを実施し、完全子会社化すると発表した。買付総額は約8820億円で、SCSKは上場廃止となる見込み。住友商事が掲げる「デジタル・AI戦略」を推進する上でSCSKの持つ技術力や人材が欠かせない存在になっていることに加え、SCSK側から見ても住友商事と一体となってビジネスを展開したほうが成長余地が大きいことなどが完全子会社化の理由として挙げられている。
住友商事の上野真吾社長
同日の会見で住友商事の上野真吾社長は、全世界に900社の事業会社を配置する、住友商事の総合商社としての“現場力”と、SCSKのデジタル技術やAI活用力、両社の人材を組み合わせることで「社会や産業の変革をリードできる」と話した。デジタルやAIを起点に、住友商事の既存ビジネスを再設計・再構築するためにはSCSKが必要だとして、今回の完全子会社化に踏み切ったとする。
SCSKの當麻隆昭社長
このタイミングでSCSKを完全子会社化した理由については、「想定を遥かに上回るスピードでAIが進展している」(上野社長)ことを指摘。SCSKの上場企業としての公平性や人材採用への影響があるとしても、住友商事と一体化することで、意思決定のスピードアップや中長期的な視点での大規模な先行投資の実行など、成長を加速させるメリットの方が大きいと判断したようだ。
生成AIによる開発効率の大幅な向上が見込まれる中、SCSKとしても既存の「SEを動員して稼ぐ人月モデル」が成り立たなくなるとの危機感を抱いている。ユーザー企業の事業戦略の立案、企画の段階からプロジェクトに参画するコンサルティング能力や、競争力のある製品やサービスの開発、産業横断型のプラットフォームビジネスなど、知財を軸とした収益力あるビジネスに転換していくにあたり、「足りないピースを住友商事と一緒に獲得していきたい」と、SCSKの當麻隆昭社長は話す。
また、SCSKの海外進出に弾みをつけていく上で、すでに海外拠点網や多くの海外人材を確保している住友商事と歩調を合わせて進出したほうが、単独で進出するよりも勢いが増す可能性が高い。SCSKは2030年度に年商1兆円の達成を視野に入れており、26年3月期の連結売上高見通しに2000億円余り上乗せする必要がある。上野社長は「(SCSKの成長に必要な)経営リソースの投入は惜しまない」と、SCSKを中核としたデジタル・AI戦略をグローバル規模で推進していく構えを示しており、住友商事の力を最大限生かして規模拡大を目指す。
株式公開買付は住友商事傘下のSCインベストメンツ・マネジメントを通じて実施し、買付期間は10月30日から12月12日までを予定している。(安藤章司)