VAIOは12月10日、安曇野本社(長野県)のPC製造拠点をメディア向けに公開した。同社は1月にノジマグループ傘下に入っており、高品質・高性能な製品づくりへのこだわりは変わらない一方、さまざまな場面でのスピードを高めていくと説明。12月に新たに就任した糸岡健社長は、「想像力と技術力をもってものづくりをわれわれの手で行い、世界中のお客様に喜ばれる製品を生み出す理想工場にしたい」と力を込めた。
(取材・文/下澤 悠)
ユニークさとクオリティー守る
糸岡社長は「従来はスピードという点で少し慎重になりすぎていた部分があると思う。ユニークさやクオリティーの面はきっちりと守りながら、今まで以上にスピードアップしていけば、われわれはもっと強くなれるのではないか」と語った。取締役執行役員常務の林薫・開発本部本部長は、「今後は親会社からバックアップを受けられる部分があるため、リスクを取る選択ができる」述べた。「クオリティーは絶対譲らない」とする一方、例えばPCのアーキテクチャーが大きく変わるタイミングで、入念に確認を重ねながら進めたため発売のタイミングが遅れる場面などが過去にあったとして、製造過程のさらなる効率化なども含め改善していくとした。
糸岡 健 社長
VAIOのPC事業は、現状法人向けが売り上げの約9割を占める。軸足は法人向け事業に置きつつ、ノジマが関東を中心に多くの販売店を持つことから「BtoCマーケットでの存在感を上げていくことができるのではないか」(糸岡社長)と期待を見せた。
林 薫 常務
ユーザーの使い方を想定しテスト
VAIOは4月から東京と安曇野の二本社制をとっており、安曇野本社は設計や製造全般、修理をはじめ企業向けのキッティングサービスなども広く担う拠点だ。
VAIO安曇野本社
製造は大きく基板実装、接着加工、組み立て、検査、梱包の工程からなる。部品を正確な場所に確実に取り付けるため、随所で機械化している。またPCは受注生産のため、顧客ごとにメモリーやストレージなど組み合わせがそれぞれ異なる。仕様を確実に反映するため、各製品に割り当てたバーコードで情報を読み取り工程ごとにチェックして管理。技術者の「人の目」による検査「安曇野FINISH」を経て完成だ。
製造工程は機械と人の手が協働する
PCから発生する電磁波が一定程度に収まっているかなどを測定したりアンテナのパフォーマンスを調べたりするEMC(Electromagnetic Compatibility)サイトも公開された。結果は製品設計などに生かされる。
妨害電波が一定以下に収まっているか測定する電波暗室
PCアンテナのパフォーマンスなどを調べる施設
同社がこだわりを見せるのが、実際のユーザーの使い方を想定して行うさまざまなテストだ。自転車のかごにPCを入れて運ぶ際の衝撃を模したテストや、ほこりが内部にたまりにくい構造を探るためデバイスに綿ぼこりを吹きかける検査などを実施している。
PCにほこりを吹きかける検査機
再生PCのエコシステム構想
8月から始まった法人向けリファービッシュPC(再生品)事業「Reborn VAIO」の再生工程も安曇野本社で行っている。製造場所と同じ拠点で作業を行うことで、回収したPCの分解などにも人員を充てやすい。40項目ほどの機能確認も徹底して行い、1年のメーカー保証を付けて再出荷している。
Reborn VAIOの販路は特定のルートに絞るのではなく、新品と同じ販売パートナーに扱ってもらえるようにしている。また記者説明会の場では、今後同社と販売店、ユーザーらが一つの輪でつながりメリットを享受できるような仕組みを、Reborn VAIOのエコシステムとして構築に取り組んでいると明らかにした。
例として、リース会社などが新品の販売時に製品を将来買い取る予約をしたり、使用したPCを売ってくれるユーザーにはReborn VAIOの販売価格を優遇したりする案を挙げた。使用済みPCの中の利用可能な部品を修理対応用に回せば、故障時に修理費用を安くすることにもつながる。将来的には廃棄ゼロの未来も構想しているという。