三井住友銀行などでつくるSMBCグループのITやDX推進の中核を担う日本総合研究所(日本総研)は、2029年3月期までの3カ年中期経営計画において、全てのプロジェクトでのAI活用を目指す。AI駆動開発の実践により、「SMBCグループの新サービスをより早く市場に送り出し、新規事業を立ち上げるための人的リソース拡大につなげる」と、日本総研取締役の柳真治・専務(三井住友フィナンシャルグループ常務執行役員グループCTO)は話す。ULSコンサルティングの伴走支援サービスを取り入れながら、内製化対応が可能な人材育成に努めており、AI活用は内製化を加速させる効果も期待できそうだ。
「ものづくり空洞化」に危機感
日本総研が内製化を推進する背景には、「現場でソフトウェアを開発する人材が減ることに対する危機感」(柳専務)があった。SMBCグループのシステム開発プロジェクトは大規模なものが多く、外部の協力会社の人的リソースを多く必要としてきた。必然的に日本総研の人員は、プロジェクトの進行管理を行うプロジェクト・マネージャー(PM)の育成が優先され、「ものづくりの空洞化」が社内で進んでいた。
左からULSコンサルティングの稲垣真道副社長、
日本総合研究所の柳真治専務、加藤研也常務、ULSコンサルティングの前田利恵部長
23年10月、プログラム制作をはじめとするものづくりの基礎を身につけるエンジニアリングセンターを組織し、「新卒者やプログラム制作を学びたいと希望する社内有志を募り、これまで約770人を育成してきた」(加藤研也・常務執行役員AI-Transformation推進部長)。既存のプログラム制作の素養がある人材と合わせれば約1300人に達し、ITソリューション事業に関連する5000人の社員のうち25%ほどが、現場経験を持つまでになった。
IT市場を見渡すと、ソフトウェア開発の用途に適したAIが次々と登場し、システム開発の手法が劇的に変わることが見込まれる中、日本総研では29年3月期までに「全てのプロジェクトにAIを活用する」(柳専務)ことを決めた。AI駆動開発によってプログラムソースが自動生成されるようになっても、プログラムの知識がある人間が検品し、確認する必要がある。柳専務は「ソースコードが正しいかどうかの最終的な責任は人間が負うことになる」と、ここ数年にわたって育成してきた“ものづくり人材”は、AIを正しく使いこなす人材にもなり得ると期待を寄せている。
ULSコンサルと包括協業を結ぶ
内製化推進に当たっては、ULSコンサルティングの伴走支援サービスを取り入れており、今回のAI駆動開発についてもULSコンサルティングと包括的な協業関係を結んでいる。ULSコンサルティングの稲垣真道・取締役副社長は「日本総研の社内にしっかり入り込んで伴走支援している」と話す。SMBCグループの情報システムは、基幹系の非常に規模の大きいシステムから規模の小さい業務アプリに至るまで多岐にわたっており、システムの規模や特性に合わせて最適なAI活用の方法論やAIツールの選定支援を行っている。
大規模システムの中には、数十年前に開発し、その後に幾度も改修を繰り返してきたものも少なくない。歴代の改修が設計書に全て反映されているとは限らず、関係者だけの暗黙知になっているケースもある。例えば、あるシステムに出力ポートが備わっており、その経緯を知る熟練社員に尋ねたところ、「〇〇年前、取引関係にあった外資系企業の顧客が本国にレポートを上げるためにつくった出力ポート」と返ってきた。機能の存在は把握していても、何のためにつくったのかまでは設計書に書かれていないことも想定される。
ULSコンサルティングでは、日本総研との協業を通じて、熟練社員に聞き取りをした音声データや過去のシステム改修に関する議事録などの非定型の暗黙知を、「マルチモーダル方式でAIに読み込ませることで、より精度の高いプログラム生成が見込めるようにすることも検討している」(前田利恵・金融トランスフォーメーション部部長)と、設計書以外の情報も積極的に取り込んでいく。
ビジネス的な成果にこだわる
社会インフラを支える非常に重要な金融システムを多数抱えるSMBCグループでは、システムの品質を非常に重視してきた。AI駆動開発でも同様で、品質の高いソースコードを生成するために必要となる情報を事前に収集し、出力されたソースコードを「人の目で正しくレビューしていく」(柳専務)ことが大切だと説く。
AI駆動開発によって生産性が向上すれば、SMBCグループのサービスをライバル他社より早く市場へ投入でき、競争力が高まる。日本総研のITソリューション事業は基本的にSMBCグループ向けだが、将来的に開発人員のリソースに余裕をつくり出すことで、外部顧客向けの新しいサービス開発を手がけられる可能性も出てくる。こうした可能性を見越し、26年4月1日付で同社のシンクタンクやコンサルティングの機能とITソリューションを融合させた「イノベーション共創推進部」を新設し、新規ビジネス創出の準備を進めている。
ULSコンサルティングの稲垣副社長は、「作業効率を何割削減したかではなく、ビジネスの成果にこだわっていく視点が重要」とし、ビジネス成果を重視したAI駆動開発の伴走支援を行う考えを示す。