エンジニアに求められる“質”の内容が変わりつつある。国が認定する情報処理関連資格やベンダー資格とともに、グローバル性、非ベンダー性、コンサルティング性を備えた「総合IT資格」とでも言うべき資格取得が注目を集めている。IT資格のトレンドはエンジニアに求められる能力のトレンドでもある。エンジニアの質の向上は、ISV(Independent Software Vendor=独立系ソフトウェアベンダー)のビジネスチャンス拡大につながる重要な課題だけに、各社の取り組みは年々熾烈さを増している。本連載では、IT関連資格・教育施策を巡る各社の動きを軸に、IT業界全体の方向性を探る。第1回の今回は、IT業界全体の現状を俯瞰する。

重要性高まるIT資格 広い視野と知識のために

■注目のCIW

 米国初のインターネット資格「CIW(Certified Internet Web master)」が注目を集めている。CIWは米プロソフトトレーニングドットコムが、98年にインターネット技術者の能力を測る国際的な資格の普及を目指して開発した認定資格だ。

 この資格は米IWA(International Webmasters Association)や米AIP(the Association of Internet Professionals)、欧ICII(Internet Certification Institute Internatio nal)などのNPO(非営利組織)で推奨されており、世界62か国以上・1000か所以上の教育機関がCIW資格取得のためのカリキュラムを実施。すでに1万5000人以上のインターネット技術者がCIWの資格を有している。この資格の特徴は、「特定ベンダーの製品や技術に偏らない中立性」と「グローバル性」(プロソフトトレーニング・ドットコム・ジャパン)にある。

 一方、ベンダー資格の「優位性」について、あるISVは「企業単位であるベンダーの資格取得や教育プログラムを推進すると、ベンダーからの情報を得やすい、という利点がある」とし、「そのベンダーの製品を扱うための免許証みたいなもの。ビジネスをスムーズに行いやすい」と位置づけている。

 国が認定する公的資格は、中立性は保たれるが、国際的には通用せず、最新技術への対応が遅れがちという欠点をもっている。

 IT資格として後発のCIWが急速に普及し始めた背景には、国内の公的資格やベンダー資格を補完する利点があったのである。

■エンジニアの“質”とは

 ISVにとって、従来厳然とした威力をもっていた国内の情報処理関連資格およびベンダー資格の「魔力」は薄れつつある。両者に共通の「欠点」は前記の通りだが、とくに前者については「ビジネスにおいて実際の効力を発揮しない」、後者については「上級資格はともかく、初級から中級資格については比較的獲得しやすく、他社との差別化やエンジニアのスキルアップに効果を発揮しなくなってきた」との厳しい指摘がある。

 IT資格のグローバル化、非ベンダー依存度傾向は、開発のオープン環境の加速と技術進歩の推移の速さ、市場のボーダーレス化に関係する。このようなトレンドに伴い、エンジニアの質を問い直す動きも強まっている。

 従来、エンジニアといえば、プログラマー、SEに代表されるように、開発現場に閉じこもり黙々と作業に没頭するというイメージがある。特定の作業を多くのエンジニアで分担し、分野外のことには口を出さない。

 しかし、今日のようにITが社会インフラの重要な役割を担うに従い、そのポジションは変化している。

 1人のエンジニアは、特定分野に偏った技術的知識と経験を有しているだけの存在から、例えば企業のIT戦略企画やプロジェクト調整、情報システムのプロジェクトマネジメントなど、広い視野と知識を有するコーディネータ的な役割を求められている。

 そこには税理士や公認会計士、中小企業診断士などのコンサルタント的な役割も含まれている。

 国内では、この傾向を敷衍するように、経済産業省が中心となり、IT関連のコンサルタント育成に力を入れ始めている。

■公的プロジェクトも

 99年、通商産業省(現経済産業省)産業構造審議会情報産業部会情報化人材対策小委員会の中間報告で提言された「戦略的情報化投資による経済再生を支える人材育成」において、ITコーディネータの必要性が指摘された。

 その後、経済産業省、情報処理振興事業協会、経営情報化推進協議会を母胎とした公的プロジェクトである、経営者のIT化を支援する「戦略的情報化投資活性化プロジェクト:ITSSP」と、経営的観点から戦略的情報化を推進する人材を育成する「ITコーディネータ制度」が誕生した。

 ITコーディネータについては、先頃第1回目の認定試験が終了し、590人の有資格者が誕生した。

 96年に導入され、現在120か国以上で認定試験が行われているPMP(Project Management Professio nal)も、プロジェクトマネジメントの基礎知識体系の認定資格ということで、これまでプラント業界や建築業界で普及していたが、最近IT業界においても大いに注目されるようになった。

 現在、資格取得者は全世界で3万人を超えているといわれ、「PMP獲得は緊急課題」とする国内ISVも多い。

 IT関連資格のトレンドは、エンジニアに求められる質のトレンドでもある。これまでは求められることが少なかったコミュニケーション能力は、最近のトレンドである資格には不可欠の能力だ。

 「資格の取得も重要だが、まずはエンジニアの社交性の向上を図らなければならない」と、あるISVでは苦笑しながら打ち明ける。

 それはエンジニアを抱える多くのISVの共通の悩みかもしれない。