既存の分譲マンションをブロードバンド化するのに通信設備工事が必要な場合、区分所有法の上でどのような手続きが必要なのか――。

 法務省はこのほど、「既存の分譲マンションのIT化工事に関する区分所有法の考え方」と題する文書をまとめ、同省のホームページに掲載した。
 
 「そもそもIT戦略会議の議論のなかから『既存マンションのIT化工事は4分の3以上の決議が必要で、やりにくい』との指摘が出たのが文書をまとめたキッカケ。区分所有法の枠組みがよく理解されていないために出てきた疑問だとも言える」(法務省民事局・吉田徹参事官)。
 
 政府が策定した「e-Japan計画」では、2005年までに高速・超高速インターネットの利用者を4000万世帯に拡大する方針が打ち出された。わが国の総世帯数は約4400万世帯だから、全体の9割をブロードバンド化しようという構想である。
 
 これを実現するために、総務省では、民間ベースでは採算に乗りにくく、ブロードバンド化が遅れると懸念される過疎地や辺地など条件不利地域(全体の1割強の約540万世帯)を対象に、政府が加入線光ファイバー網を敷設するなど支援する方針を打ち出した。

 さらに、この条件不利地域と並んで、ブロードバンド化の遅れが懸念されたのが、すでに300万戸以上に達していると言われる既存の分譲マンションだった。

 区分所有法では、「区分所有建物の共有部分を変更する時には、区分所有者および議決権の4分の3以上の多数による集会の決議(特別多数決議)を経る必要がある」(第17条)と定められている。

 もしブロードバンド化で通信設備工事が必要となった場合、区分所有者の4分の3の賛成が必要だとすると、非常に手続きが面倒になり、ブロードバンド化への移行がスムーズに進まない可能性が出てくる。

 法務省では、国土交通省や総務省から既存マンションのIT化工事の施工事例に関する資料を提出してもらい、どのような方法がIT化に有効かを検証してきた。今回の文書では、IT化工事のそれぞれの事例別に区分所有法に照らしてどのような手続きが必要かを明確化した。

 「住民の意思形成を行う場合、“4分の3以上”と“過半数”の2種類のやり方がある。共有部分の工事では“4分の3以上”が必要かといえば、必ずしもそうではない。“4分の3以上”が必要なのは、『マンションの形状と効用を著しく変更する場合』と一般に解釈されているので、それ以外は“過半数”の決議で行うことが可能だと考えられる」(吉田参事官)。

 区分所有建物では、いくら通信回線を外壁に這わせるだけの工事でも、共有部分に何らかの変更を加える場合には住民の意思形成を行う必要がある。かつて衛星放送が登場した当時に、ベランダにパラボラアンテナを勝手に取り付けた住民に対して撤去を求めた裁判もあっただけに、やはり手続きは避けられないだろう。

 ただ、工事のやり方を工夫して形状と効用を著しく変更しないようにすれば、過半数の決議で工事を行うことができることが明確化されたわけだ。

 法務省の公式見解がまとまったのを受けて、国土交通省と総務省では既存マンションのブロードバンド化を推進していくための施策を具体化していく考えだ。まず、法務省の公式見解で示された「形状を著しく変更しない」という基準をクリアする工事のガイドラインを早急に策定する考えだ。

 また、マンション住民がIT化工事を積極的に推進するインセンティブが働くように、マンションのブロードバンド対応度を表示させ、情報開示する仕組みを作ることも検討している。ブロードバンド化対応度が資産価格に反映されるようになれば、住民の投資意欲も高まると期待している。