攻防! コンテンツ流通

<攻防! コンテンツ流通>2.ブロードバンド時代の記録媒体のあり方とは

2002/04/08 16:04

週刊BCN 2002年04月08日vol.936掲載

 「実際問題、20年前にできた音楽CDの規格のなかに、今の最新式パソコンで音楽データを読み出せなくする技術を埋め込むのは不可能に近い。至難の業だ」――。こう語るのは、ソニーでバイオ(VAIO)事業を統括する木村敬治執行役員だ。20年前には、パソコンで音楽データを読み出し、ブロードバンドを経由して“逆流通”してしまうことなど、想像できなかった。

 問題の発端は、音楽CDの曲をファイルとしてパソコンのハードディスクに蓄積し、ネット上に放出する危険性が高まっていることに不快感を示すレコード会社が、パソコンのCD-ROM装置で読み取れない“コピー防止技術”を独自に組み込み始めたことにある。

 レコード会社大手のエイベックスは、すべての新譜音楽CDのデータをパソコンで読めないようにすると表明している。

 一方、音楽CDの規格の制定に携わったソニーは、レコード会社が個別の判断でコピー防止技術を組み込み、パソコンや既存のステレオコンポ、ラジカセとの互換性が低くなることに不快感を示す。

 「そんなに音楽CDの規格に懸念を抱くならば、DVDだってあるし、ほかの媒体を使う方法だってある。それでもレコード会社が音楽CDを使うのは、再生装置が最も普及しているから。互換性が低くなれば、その利点も薄れる」と厳しい。

 もちろん、ソニーが著作権者の権利を軽視しているわけではない。ソニーなりにブロードバンド時代に即した記録媒体の規格を提唱する。ただ、既存の音楽CDの規格にコピー防止対策を付加するのは、互換性維持の観点から困難だと指摘しているだけだ。

 ネットワーク上でも著作権を守れる規格として、ソニーでは、(1)ネットMD、(2)メモリースティック、(3)オープンMGの3つを推奨する。

 ネットMDは、音楽データをやり取りするパソコンとMD(ミニディスク)機器との通信規格である。「ネットMD」に対応した音楽データを制作すれば、「ネットMD」に対応した機器のみに音楽データの転送を限定できる。

 ソニーが押す超小型半導体メモリ媒体「メモリースティック」にも、著作権管理技術「マジックゲート」を埋め込んだ。この技術に対応したメモリースティックは白色で塗り分けた(通常のメモリースティックは青色をしている)。

 この白色メモリースティックは、「マジックゲート」に対応していないパソコンなどの機器と音楽データのやり取りができない。この点では、ネットMDの仕組みとほぼ同じである。バイオやクリエ、ソニー製携帯電話などメモリースティック挿入口がある機種は、マジックゲートに対応している。

 ネットMDやマジックゲート対応メモリースティックは、基本的にMDやメモリースティックのみに対応した技術だ。これに対し、パソコンに対応した著作権管理技術として「オープンMG」がある。MDやメモリースティックとオープンMGの暗号技術を組み合わせて使うことで、より完全に管理できる。

 オープンMGは、ハードディスクへの音楽データの保存、MDやメモリースティックといった外部機器との相互認証、複製回数の制限などの著作権管理ができる。NTTドコモの携帯電話もオープンMGの技術を採用した。ソニーとしては、すでに普及している音楽CDの規格を変更することで混乱を招くよりも、比較的新しく著作権管理に優れたDVDやネットMD、メモリースティック、オープンMGに対応した音楽データの制作を推奨しているようだ。

 ブロードバンド戦略にレコード会社を引き入れたいソニーなどメーカー側の思惑と、最も普及している媒体にコンテンツを送り出し、なおかつ著作権を守ろうとするレコード会社側の思惑のズレがある。(安藤章司)
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