変わるかシステム入札

<変わるかシステム入札>3.ヤス・クリエイト(中)

2002/04/15 16:18

週刊BCN 2002年04月15日vol.937掲載

 産省出身で、現在はコンサルティング会社、ヤス・クリエイトの社長である安延申氏は、官公庁のIT調達の問題点として、(1)単年度予算主義、(2)評価制度、(3)人材――という3つの問題点をあげた。この中で単年度予算の問題は、なぜ起こり、どうすれば改善していくのか。

制度の変革が必要

 ――前回、官公庁によるIT調達の問題点として、大きく3つのポイントがあると指摘してもらった。各問題点について、もう少し詳細に聞いてみたい。まず、1つ目の単年度予算についてだが、IT調達に限らず、外務省の機密費など単年度予算の問題が指摘されることは多い。だが、改まる様子がないのはなぜなのか。

 安延
 予算は旧大蔵省、現在の財務省からもらう形になっているわけだが、支出は固定されては困るというのが大前提になっている。

 例えば、1年目で1000万円の予算が必要になったとしても、次年度にはその分が必要なくなるかもしれないし、もっと安くなるかもしれない。支出が固定されては困るという発想がベースになっているわけだが、これは5年分をまとめてやった方が安くなるという立証がないからでもある。

 大規模な道路を建設する場合には、5か年計画といった複数年予算をとる場合もある。しかし、ITに関しては複数年予算は認められていない。

 本来、IT戦略会議で複数年予算が認められていないことの弊害を提言すべきだと思うのだが。 もっとも、ITの場合、技術的な進歩の激しさという、道路建設にはない特徴があることも事実。道路は5年たっても技術の進歩に大きな変化があるとは考えにくいが、ITの場合は5年で様相が激変してしまう。

 例えば住民基本台帳、LG1については専用線を利用することになっているが、これは計画が立てられた当時は、インターネットがこうした用途にまで利用できるとは考えられなかったからだ。だが、今なら専用線ではなくインターネットを利用すべしということになる。これは技術の変化が要因となっている。

 ――確かにITは、技術的に変化が激しいものだとは思うが、予算はITに限らず問題があるのでは。

 安延
 民間では予算をできるだけ少なく済ませると評価されるが、官公庁では予算を余らせると怒られる。

 これは、予算が実績主義に基づいているから。前年度の予算がベースになって、次年度の予算枠が決まる仕組みになっている。

 1500万円の予算をとっていたものが、1000万円で済んだとなると、次年度の予算は1000万円で十分ということになってしまう。

 民間と同じように、予算よりも少ない額で済ますことができれば、インセンティブを与え、予算をうかせたスタッフが出世するという仕組みになれば変わってくると思う。

 日本の官僚は、本来は非常に優秀なので、現状の仕組みには問題点があるから何か良い仕掛けを考えろと言えばきちんと考えて答えを出す。

 一緒になってIT予算の賢い使い方を考えるということになれば、新たな制度を考えるはずだ。

 現状の制度については、「変えればいい」としか言いようがない。

 5億円で10のスペックが必要という案件に対し、「3億円でできます」というA社と、「5億円で100のスペックができます」というB社では、A社が勝つ仕組みになっている。

 本来はB社を選択した方が得なはずだが、制度がそうなっていない。やはり、制度をきちんと変えていくべきだろう。(三浦優子)

安延申(やすのべ・しん)
1978年東京大学経済学部卒業。同年4月通商産業省に入省。通産省APEC室長、通産大臣秘書官、情報処理振興課長、電子政策課長などを経て、00年7月に同省を退職。同年8月にヤス・クリエイトを設立し、IT関係の調査、コンサルティング業務を行うほか、スタンフォード大学日本センター研究所長としても活躍する。
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