「パッケージソフトの場合、代金を支払った後に初めてライセンス契約内容を見るケースが多い。もし、契約内容に同意しないからといって、果たして返品・返金が可能なのか。販売店にとって、どのような場合に返品に応じる必要があるのか、といった問題など、必ずしも法解釈が明確になっていない」(経済産業省商務情報政策局情報経済課・池谷香次郎権利保護係長)。確かに、IT分野ではこれまでの商取引慣行では考えられなかったようなケースが発生する。コンピュータプログラムのような情報財は、簡単にコピーすることが可能だ。そのため、消費者から「やっぱりライセンス契約内容に同意できないので返品する」と言われ、「はい、そうですか」と応じるわけにもいかない。

 「もし、ライセンス契約の解除などが認められるケースがあった場合でも、その時に消費者に対してコピーを含めて廃棄することを求められるかと言えば、現行法の解釈では廃棄までは求められないのではないか」そんな法解釈を、問題となりそうなケースを挙げて解説しているのが、経済産業省が3月に公表した「電子商取引等に関する準則」である。準則は、最初に事例としてあげた「情報財取引」に関する部分と、電子商取引そのものである「オンライン取引」に関する部分の大きく2つに分かれている。情報財取引では、ライセンス契約が一般的だが、売買によって単純に所有権が移るわけではないので、解釈に迷うケースも多い。品物に欠陥があれば、通常は返品に応じるのは当然だが、コンピュータプログラムにバグ(誤り)は付きもの。それがすべて「欠陥」と解釈されてしまったのでは、情報財の取り引きなどできなくなってしまう。

 一方で、ライセンス契約を受けている情報財の知的財産権をライセンスしていた側が第三者に譲歩し、第三者が権利を専用しようとした場合、どうなるのか。第三者対抗という問題もある。「この場合は、個人のみの使用の場合は引き続き使用が可能だが、それをビジネスで使用する場合はライセンス契約の継続はできないケースが多いだろう」(池谷係長)。もう一方の大きな柱であるオンライン取引でも、法解釈が難しい問題は多い。例えば、先に運用を開始したばかりの政府の電子申請システムでも話題となった「なりすまし」の問題は、図の「契約手法に関するルール」の部分で解説されている。

 また、「新たな取引の発展にともなうルール」では、電子商店街(サイバーモール)運営者の責任について、「消費者保護に関するルール」では、消費者の操作ミスによって意図しない申し込みを行った場合などについて、電子契約法など解釈の明確化を図った。今回の準則の公表に先立って、産業構造審議会の情報経済分科会では、IT化によるわが国経済の構造改革の方向性を示した第3次提言「ネットワークの創造的再構築」をとりまとめた。ここで、IT革命の本質が“組織革命”にあるとの見方を示し、IT化によって従来の垂直統合型組織を再編する必要性を強調している。今回の準則やADR(裁判外紛争処理)制度の提案は、この第3次提言が見通した“組織革命”後の情報市場に適合した新しいルールとして、時代を先取りしたものだ。