OVER VIEW

<OVER VIEW>未曾有の不況下、国内IT企業 02年決算総覧 Chapter1

2002/07/01 16:18

週刊BCN 2002年07月01日vol.947掲載

 

総合メーカー軒並み巨額純損

 国内総合ITメーカーはパソコン、携帯電話不振による未曾有の半導体不況、さらに米通信サービス設備投資削減で巨額赤字決算となった02年3月期決算を発表した。しかしわが国は米国に比べ企業IT投資は堅調で、各社は02年度、ソフト・ITサービス売上増を推進し業績のV字型回復を狙う。国内メーカー各社はITサービスによって利益の面で復権を果たしたIBMモデルを追いかけ始めた。しかし、ITサービスでIBMと国内各社はその利益率に大きな格差があり、この利益格差解消の戦略展開が早急に求められている。

■半導体、パソコンが業績低迷要因

 未曾有の半導体不況によって、電子デバイスを手がける国内総合コンピュータメーカーの02年3月期決算は大幅な減収となり、各社は最終損益で巨額赤字となった。売上減少は日立製作所5.0%、東芝9.4%、NEC5.7%、富士通8.7%である(Figure1)。

 純損益赤字は日立4838億円、東芝2540億円、NEC3120億円、富士通3825億円といずれも巨額である。

 各社はいずれも総利益が前年比大幅減となったため、営業損益段階でも赤字となった。01年にパソコン、携帯電話出荷が世界的に減少したことによって半導体需要が大幅に落ち込み、そのため各社の電子デバイス部門が巨額赤字に陥った。

 この動向はわが国だけでなく世界共通であった。ネットバブルに躍った米国では、00年までのIT過剰投資調整のため米企業は01年にIT投資を大幅に絞り込んだ。そのため、同年の米国IT市場規模は13.8%減となった(フォレスター・リサーチ)。

 一方わが国は米国のようなネットバブルが起こらなかったため、企業のIT投資はパソコン以外は堅調に推移した。このため米ITメーカーに比べ、わが国メーカーのIT部門売上高には米国のように極端な減少は見られなかった。しかし、パソコン比重の高い富士通IT部門売上高は前年比3.6%減、NECも0.9%の微減となった(Figure2)。

 各社IT部門は営業損益で黒字となったが、その売上高利益率は富士通4.6%、NEC3.4%、日立2.0%と低いものであった。一方日本IBMは10.6%の営業利益率で国産メーカーとの格差を明確にした。

 総合コンピュータメーカー各社はハードからIBMルイス・ガースナー前CEOが実証した利益モデル「ITサービス重点」へのシフトを進め、02年以降業績のV字型回復を狙う。IT不況によって各社は初めての大幅な人員削減、ビジネスコスト低減、そしてコアビジネスへの経営資源集中など本格的リストラクチャリングを実行しつつある。

 02年4月以降も日立が米IBMのディスク事業買収、NEC半導体部門の分社化などが発表されており、各社ともビジネス戦略の転換を推進中だ。

■富士通、米IBMに類似した事業構造

 富士通は、IBMとコンパックを買収したHPに次ぐ売上規模をもつ世界第3位のITメーカーであると同時に、そのビジネスモデルがIBMと類似することでも知られる。

 IBMと富士通は、ソフトウェア・ITサービス、コンピュータ・ハードウェア、半導体などの電子デバイス、そしてレンタル、リース、ファイナンスなど金融部門をもつことも共通だ。

 ソフト・サービスでIBMは16.2%の利益率で、富士通は7.4%だ。コンピュータハードでIBMは6.3%の利益率、富士通はわずか0.9%の低い利益率だ。

 電子デバイスは両社とも赤字で、IBMはマイナス3.6%の利益率に対し、富士通営業損失率は17.1%ときわめて大きい。金融もIBMは15.4%と高い利益率であるが、富士通は1%以下にとどまる(Figure3)。

 また国内総合メーカーIT部門売上高のソフト・ITサービス構成比も、ハードの落ち込みもあって年々高くなっている。富士通56.6%、日立52.5%と米IBM並みに高いが、パソコンなどのハード比の高いNECは38.8%にとどまる(Figure4)。

 一方、このように売上高構成比の高くなったソフト・サービスの利益率格差は企業全体の利益率格差に直結するようになったことに留意しなければならない。当分野でIBMの税引き前利益率16.2%に対し、富士通営業利益率は7.4%で9ポイントの差がある。国内メーカー各社はソフト・サービスの利益率向上のため工数削減とともに、社内人件費単価の低減、外注コスト圧縮に注力し始めた。

 富士通は外注費一律10%削減を各システム開発会社に求めている。このような努力の結果、富士通の当分野利益率は01年3月期から1ポイント以上向上した。IBMとの利益格差解消のため、当分野では最低10%の利益率が求められるだろう。

■パソコン売上減少をソフト・サービスで補完

 ハードの価格破壊はパソコンにとどまらず、インテルサーバー、UNIXサーバー、メインフレームにも及んでいる。

 米調査会社IDCによると、02年1-3月世界のサーバー出荷台数は前年同期とほぼ同じ105万台だったが、出荷金額は20%減となり、パソコンに続きサーバーもハイテクデフレが明確になった。

 世界的にパソコンは出荷台数減、価格大幅低落のダブルパンチに見舞われている。これを日米総合メーカーのパソコン売上高大幅減少が実証する(Figure5)。

 IBM20.6%、NEC25.8%、富士通20.7%という大きな減少だ。各社はこの売上減をソフト・ITサービス売上増加で補わなければならない。

 02年はパソコン、サーバーに続いてハード市場けん引役の大容量ストレージにも強いデフレ圧力が加わるからだ。

 各社はこのためソフト・サービス売上増に注力する。ハード不況に対し、とくにわが国ではソフト・サービス市場が堅調である。

 情報サービス産業協会は02年も国内情報サービス市場は5-6%伸びると予測する。国内全IT市場におけるITサービス構成比は既に50%を越えたと推定される。ソフト・サービス売上高の大きな米IBMの伸びは4.7%、、富士通は3.5%であったが、これまでの売上高の小さなNECは19.6%、日立は16.4%ときわめて大きな伸びを見せた(Figure6)。

 またわが国ではe-Japan計画に基づく「行政電子化」という巨大国家プロジェクトが進められており、この市場は最大15兆円規模も想定されている。

 国内各社はこのプロジェクトにおける獲注シェアアップに熾烈な競合を展開し、これをテコに02年のV字型業績回復も狙う。

 国内総合メーカー各社は通信機器事業ももつが、とくに米通信サービスは業績低迷と巨額負債5100億ドル(63兆円)に苦しみ、設備投資も減少し続ける。このような背景から国内総合メーカー各社はソフト・サービス事業拡大を推進しなければならない。
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