大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第39話 異端者

2002/07/01 16:18

週刊BCN 2002年07月01日vol.947掲載

 しばらく前の話であるが、たまたま日本の首相が新しく任命され、その演説がテレビで映し出されている場に、米国の友人と居合わせたことがある。

 しばらく前の話であるが、たまたま日本の首相が新しく任命され、その演説がテレビで映し出されている場に、米国の友人と居合わせたことがある。あの時の首相はたまたま自由民主党の派閥均衡の上から選び出された人で、朴とつだけが取り柄の何の能力もない人間であった。晴天のへきれきとでも言うか、思いもかけず首相に選ばれて、人のよさそうな顔に汗をしたたらせながら喚いている姿を見て、友人が「何をあんなに一生懸命喚いているのだ。翻訳しろ」という。

 彼が思ったのは「あれだけの熱弁であるからさぞかし日本を語り、世界を論じ自らの抱負を語っているのだろう」と期待したようであった。その実、首相が汗を流して繰り返し喚いていたのは、「私は浅学非才、まことに至らぬものであり、とてもこの重任に耐える能力があろうとは思えませぬが、皆々様のご支援を得て、この大任をつつがなく果たしたいものと考えています。よろしくご指導いただきたい」ということであった。私の翻訳を聞いた外来の友は最初は冗談だと思ったようだ。しかし、それが真だと知った途端、頭を叩いて言ったものだ。

 「たはっ、日本の大将は汗を流して自分が無能力者であることを演説しているのか。不思議もここにきわまれり、と言う感じだな。どこの国だって、上に立つ人間は自らの能力をアピールし、それをもとに自分はかくかくしかじかのことをやりたい、と言って選ばれるもんだろう。日本はバカでないと大将になれんのかね」言われてみればその通りだ。しかし、そのような西欧的なスタイルに対して今でも「キザな奴だ」と多少アレルギーがあるのが日本社会なのであろう。武蔵を好かん、という連中が出ても不思議はないのである。なかなか異端者の育ちにくい国柄ではあるなぁ。 (熊本空港にて)
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