OVER VIEW

<OVER VIEW>未曾有の不況下、国内IT企業 02年決算総覧 Chapter2

2002/07/08 16:18

週刊BCN 2002年07月08日vol.948掲載

 AVでは堅調のソニーに対し、ハード重点の松下電器の苦戦が目立つ。松下は巨大デバイスベンダーであり、半導体不況をもろに受けているからだ。パソコン市場低迷によって関連IHV(独立系ハードベンダー)のメルコ、アイ・オー・データ機器の決算も厳しい。これまでの主力メモリ事業は採算ラインから大きく遠のいたので、商品構成の改革が大きな課題となる。IHV同様、あるいはそれ以上に厳しいのが、パソコンのソーテック、オープンソースのぷらっとホームなどの専業ベンダーだ。専業ベンダー決算は米国同様の惨たんたる状況となった。(中野英嗣)

AV/専業メーカー、IHV決算

■ソニー堅調、松下電器は大幅減収減益

 AV(オーディオ・ビデオ)機器も業界・商品のデジタルコンバージェンスによってICT(情報通信産業)の有力商品となった。しかし、世界の代表的AVメーカー、ソニーと松下電器決算は明暗を分けた。

 ソニー売上高は7兆5782億円で松下の6兆8766億円を抜き、ソニーが世界AV業界トップ企業に躍り出た。しかし利益面では両社とも厳しく税引前損益でソニーは65.1%の減収にとどまったが、松下は5480億円の巨額赤字となった。松下は1640億円の事業構造改革費用など巨額事業リストラ費を計上したからだ(Figure7)。

 両社の明暗は両社セグメント情報が明確に物語る。ソニーはエレクトロニクス売上高が3.0%減少したが、ゲームは51.9%増、音楽、映画などコンテンツ事業がそれぞれ5.0%、14.5%伸長し全社売上高伸長率3.6%を支えた。

 とくに出足が鈍かったゲーム機プレステ2出荷が世界的に伸びてゲーム事業で売上高は3428億円増え、営業損益は1340億円も改善し、全社営業利益1346億円の60%を稼ぎ出すまでに成長した(Figure8)。

 ソニーの中期的経営戦略は自社AV、ゲーム機をホームネット端末とし、自社ゲーム、音楽、映画などコンテンツをネット上で販売する「eディストリビューション」を中核ビジネスに育成することだ。このビジネスを立ち上げるにはブロードバンド普及が条件となる。

 わが国はADSL、光ファイバー網普及の先進国に躍り出ようとしており、この社会インフラはソニーの戦略を支える。これに対しAVメーカー松下はAV、通信機器、アプライアンス、半導体・電子部品などデバイスが主力ビジネスのAVハードメーカーである(Figure9)。

 松下は全社で売上高が10.5%減少した。その大きな要因は売上高4兆2801億円のAVCネットワークが前年比5.3%減、そしてこれに次ぐ規模のデバイス売上高が世界的半導体不況によって20.4%減少したことである。FA、産業機器売上高も37.7%減少した。

 松下は事業部制の廃止、関連会社の統合などのリストラを03年に完了し、再度AVメーカーのトップ返り咲きを狙っている。松下は世界的巨大AV機器メーカーであると同時に、デバイスの世界トップ企業である。このため事業リストラと合わせて、デバイス世界市場の回復が業績回復のカギを握ることになる。

 いずれにせよソニー、松下は世界ICT業界でIBM、コンパックを買収したHP、日立製作所に次ぐ第4位、5位メーカーである。この巨大AV両社の業績回復はわが国ICT産業の発展のために期待するところは大きい。

■パソコン市場低迷でIHV決算も苦境へ

 わが国を代表するパソコン関連IHVのメルコ、アイ・オー・データ機器(中間決算)決算でメルコはわずかに黒字を維持したものの、アイ・オー・データ機器は営業損益で18億円の赤字に転落した。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると、01年国内パソコン出荷は台数で前年比12%減、金額は17%も減少した。これにともなって、メルコ、アイ・オー・データ両社売上高もそれぞれ前年比21.3%、11.2%減少した(Figure10)。

 パソコンの出荷台数減と価格破壊は両社総利益額の大幅減少を招き、メルコは23.0%減、アイ・オー・データ機器は60%近く減った。とくにアイ・オー・データ機器の総利益率は、前年同期比11.7%から当期は5.3%へと低落した。

 売上高、総利益が大きく減少したにもかかわらず、アイ・オー・データ機器の販管費は前年費微増となったため、同社営業損益率はマイナス7%を越えた。

 当面IHVはこれまでの主力商品であるメモリ依存度を大幅に下げなければならない。メルコ製品分類売上構成比はこの変革が既に進んでいることを物語る(Figure11)。

 構成比でメモリは13.7ポイント減り、ストレージは4.1ポイント増、そしてネットワークは10.1ポイント増加した。売上高でみるとメモリは48.0%減、ストレージも10.7%減に対し、ネットワークだけは15.8%伸びた。

 パソコン市場が低迷すれば、当然関連IHV決算にも大きな打撃となる。このためIHVはわが国のこれからの大きなデジタルAV機器市場を睨んで、この関連機器商品開発を進めなければならないだろう。

 AVメーカーも有望商品としてデジタルTV用ネット機器、ディスクベースのPVR(プライベート・ビデオ・レコーダ)市場を狙うが、IHVの立場からこれら商品開発を進めるべきだろう。ワイヤレスLAN関連市場もここ数年は大きく伸長するが、価格競争はさらに厳しくなる。

■惨たんたる状況の専業メーカー決算

 パソコン市場の低迷によって、専業メーカー、ソーテックの売上高は前年比47.8%減とほぼ半減し、営業損益も前年27億円の黒字から51億円の巨額赤字に転落した(Figure12)。

 パソコン専業メーカー苦戦は米国でも同様で、わが国から撤退したゲートウェイなども売上半減の情況に陥っている。米国では専業メーカーだけでなく、HP、IBMなど総合メーカーのパソコン事業も大苦戦が続いている。

 世界のパソコン市場では、独特なビジネスモデルを定着させたデル1社の独り勝ちという様相が強まっている。わが国もデル旋風が吹き始め、業界トップのNECや富士通も苦戦している。当面国内パソコン市場の回復は望めない。ソーテックが生き残るには、米国流の経費半減の強行リストラ手法を定着させることも必要だろう。

 ソーテック同様に、オープンソースのUNIX専業であるぷらっとホームの苦戦は売上高減少とともに総利益率が前年の26.2%から10ポイント近く減り16.8%に低下したことが大きな要因となった。

 同社が注力するLinuxサーバー市場は今後とも大きく伸びることが期待されるが、大手のサン、IBM、デルなどの外資系、NEC、富士通も攻勢を強めており、専業ベンダーを追いつめる。

 米国では同社同様のLinuxサーバー専業のVAリナックスもハード生産から撤退し、Linuxソフトベンダーとして生き残りを図っている。
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