OVER VIEW

<OVER VIEW>未曾有の不況下、国内IT企業 02年決算総覧 Chapter3

2002/07/15 16:18

週刊BCN 2002年07月15日vol.949掲載

 わが国を代表するテレコムであるNTTとNTTドコモは、営業利益では前年比より伸びたものの、関係会社株式評価損、事業リストラなど巨額特損を計上した。このためNTTは8000億円を越える純損益赤字、ドコモの純利益も前年比99.8%減という赤字スレスレまで落ち込んだ。両社は身軽になったことで02年以降V字型業績回復を狙う。KDDIも携帯電話が主力事業となったものの、全社的営業利益率ではNTT、ドコモに大きく劣り、事業体質強化が大きな課題だ。(中野英嗣)

国内テレコム企業の決算

■2兆円の巨額特損で巨額赤字のNTT

 NTTは、営業収益(売上高)11兆6815億円と世界最大の巨大テレコムで営業損益も9473億円という巨額利益を計上する。

 しかし関係会社株式評価損8657億円、事業構造改革費用6081億円、海外子会社事業改善費用631億円、連結調整勘定一時償却費4496億円など2兆790億円の巨額特別損失を計上したため、税引前損益は1兆3607億円の赤字となった。

 またNTTグループ最大の稼ぎ頭NTTドコモ営業収益は前年比10.4%増の5兆1715億円となった。しかし同社も関係会社株式評価損8128億円を計上したため、税引前利益は前年比94.1%減の僅か404億円の黒字となった。

 KDDI営業収益はIDOの合併効果もあって前年比24.9%増となったが、税引前利益は前年比54.5%減の208億円にとどまった(Figure13)。

 米国のテレコムは、ベライゾンなど地域会社は市場独占状態となって通信料も値上りして好業績をあげるものの、クエスト、ワールドコムなど長距離会社は通信料の価格破壊、巨額M&Aの資産評価減償却、さらに98年から01年の4年間に米通信は5104億ドル(66兆円)も有利子負債を膨らませて失速状態となり、株価も数ドル、ワールドコム株価はセント台となって、近々の倒産すら示唆する状況となった。

 これに対し競合の少ないわが国テレコムの同期間の有利子負債増は米国の10分の1以下の481億ドル(6兆円)にとどまっている。

 ネット時代の社会インフラとなったテレコム事業で、米国はきわめて深刻な状況に陥っている。これに対しわが国NTTグループは、02年3月決算で巨額特損を計上し身軽になったことで、02年以降、最終損益でもV字型回復が期待される。

 しかしわが国テレコム事業にも英C&W、世界最大の携帯電話英ボーダフォンも参入して、国内テレコム市場も本格的国際競争の時代に突入した。

■広範囲の情報通信サービス、NTTグループ

 NTT事業系統図によると、同社グループは地域通信、長距離・国際通信、移動通信、データ通信・システムインテグレーションと通信、ITサービスを手広く手掛けるサービス事業者である(Figure14)。

 NTT関連会社であるNTTデータの02年3月売上高は8019億円で、ITサービス2位の伊藤忠テクノサイエンス売上高3453億円を大きく引き離す突出した規模の国内SIerでもある。

 また、NTTデータは富士通、NEC、日立製作所とともに官公庁ITシェアの4強を形成し、e-Japan、行政電子化でもいくつもの巨大プロジェクトを手掛ける。

 またNTTは巨大iDC(インターネット・データセンター)事業も展開して、ITサービス事業も強化している。

 NTTセグメント情報によると、移動通信事業の売上構成比は44.2%に達し、これまでの本業地域通信の同比35.5%を大きく上回っている。

 セグメント別営業損益率でも移動通信が19.7%、データ通信7.2%、長距離・国際通信5.1%の黒字に対し、地域通信はマイナス3.3%となり、NTT事業の今後の明暗を示唆する(Figure15)。

 NTT経営方針によると、同社は今後、(1)光アクセスサービスの積極的展開、ブロードバンドコンテンツ/アプリケーションの需要開拓によるIT革命実現への貢献、(2)IP、モバイルマルチメディアを中心とする国際事業の効率的推進、(3)厳しい財務状況のNTT東西のコスト構造の改革に注力する。

 NTTグループにとって、これまで独占であった地域通信をどのようにVoIPインフラへトランスファーするかが最大の課題となるだろう。

■海外iモード、国内FOMA普及挑戦のドコモ

 02年3月までNTTドコモiモードサービスは順調に伸びてきた。しかし第3世代FOMAサービス契約数は9万にとどまり、短期的に急速な拡大は難しい状態といえよう。

 それでもドコモは今後1年間で130万のサービス契約増を狙う(Figure16、17)。

 NTTドコモの課題は国内でのFOMA普及、海外でのiモード普及である。ドコモはNTTグループとして海外戦略拡大の先兵として活動してきた。

 ドコモ経営戦略も「音声から非音声へ(マルチメディア化)」、「動くものすべてへ(ユビキタス化)」、「国内から海外へ(グローバル化)」の3つを軸に展開すると説明されている。

 モバイルマルチメディアとして期待するのは当然FOMAで、ドコモは当サービスエリアを04年3月末には人口カバー率97%まで拡大し、600万契約獲得を計画している。

 ユビキタス化でiモードによる「人対機械」の通信に加え、自販機在庫管理、情報家電遠隔操作、携帯情報端末を利用したモバイルeコマース展開を狙う。

 グローバル化ではドイツ、オランダに続き、ベルギー、台湾そして本命の米国でも出資先AT&Tワイヤレスと共同で当サービス開始を狙う。

 グローバル化のためドコモは02年3月、ニューヨークとロンドン証券取引所に同時に上場し、海外株式市場での資金調達基盤をもった。

 ドコモは出資先米国、英国、オランダ、台湾の関係会社の実質評価の減額処理を実施して身軽になった。

■KDDI、携帯電話の売上構成比が60%へ

 KDDIセグメント情報によると、同社売上構成比でツーカーセルラーの携帯電話事業が65.8%と、同社KDD時代の主力事業の国際通信などネットワーク&IP構成比23.1%の3倍近くに達している(Figure18)。

 しかしドコモの同事業営業利益率21.3%に比べると、KDDI携帯電話営業利益率は3.1%と極端に低い。全社営業利益率を見ても、NTTドコモ19.4%、NTT8.1%に対してKDDIは3.6%と低い。

 KDDIはau事業において、02年4月から第3世代サービス「CDMA2001x」を全国主要都市で開始し、利益率の高いcdma方式に特化することでNTTグループとの競合力を高めて、収支の改善と事業体質強化を狙っている。

[訂正]7月8日号26面「OVER VIEW」中、Figure7にあるソニーの営業損益の前年比増減が▲40.8とあるのは▲40.3、Figure8にあるエレクトロニクス部門の営業利益が▲823とあるのは▲82の誤りでした。お詫びして訂正します。
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