OVER VIEW

<OVER VIEW>未曾有の不況下、国内IT企業 02年3月期決算総覧 Chapter5

2002/07/29 16:18

週刊BCN 2002年07月29日vol.951掲載

 わが国のSI(システムインテグレーション)中心の大手ソリューションプロバイダでは、最大手NTTデータを筆頭に大型案件で熾烈な競合を展開する。メーカー系と独立系の競合も目立つ。ハードの価格破壊が激しくなったIT市場では、売上高を伸ばすにはITサービスの伸長に依存しなければならない。しかし大手でもNTTデータのように売上高が前年並みにとどまったところ、富士ソフトABCのように40%も売上高を伸ばす企業も出ている。わが国ではe-Japanの行政電子化という巨大市場が誕生し、ここでも激しいシェア争いが展開される。(中野英嗣)

SI中心のソリューションプロバイダ

■米国系と利益格差大きい国内大手SP

 ハード販売ではなく、SI(システムインテグレーション)がコアビジネスのソリューションプロバイダ(SP)には、わが国の当業界大手が揃う。

 国内最大手NTTデータの売上高は8019億円であったが、前年比伸びはわずか0.1%にとどまった。第2位CSKも同1.2%増で売上高は4237億円、これに3.2%増、2215億円の富士通サポートアンドサービス(Fsas)が続く。

 NTTデータの営業利益率は7.4%、CSK3.6%、Fsasは5.0%だ。売上高1000億円超のソリューションプロバイダに前年比39.9%も売上高を伸ばした富士ソフトABCが加わった(Figure25)。

 同社2001年売上高は805億円であったが、1年でこれを321億円も伸ばした。富士ソフトの99年売上高は617億円だったので、2年間の年平均売上高伸長も35.1%と異常に高い。

 売上高1000億円以下では、メーカー系列のNECソフト、富士通BSC、これに独立系ソフトバンク・テクノロジーが注目されている(Figure26)。

 NECソフトは当年が連結初年度であるが、01年にNEC関連ソフト3社と合併したため、売上高は1000億円近くの931億円となった。

 同社の営業利益率は9.8%とSPとしては比較的高い。富士通BSCの売上高は前年比6.3%伸びたが、総利益が15.1%減少したため、経常利益も40.8%減益となった。

 ソフトバンクテクノロジーは前年が6か月決算のため前年との比較はできないが、営業利益率は7.1%だ。電子商取引関連システムの構築を主体に、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)も手掛けるソフトバンクの戦略子会社として注目されている。

 わが国SP専業最大手NTTデータと世界専業最大手EDS決算を比較してみると、EDSの売上高はNTTデータの3.4倍、営業利益率は2.3ポイント高い(Figure25)。

 EDS総利益率はNTTデータより7.2ポイントも低いが、EDS販管費率9.3%はNTTデータ18.9%の半分以下なので、営業利益率が高くなる。

 米IBMのソフト・サービス部門売上高は5兆9868億円で圧倒的に巨大だ。同部門税引前利益率は17.4%とEDSより7ポイント以上高いが、これでハード不振の全IBM税引前利益の80%を稼ぐ。この高い利益率はIBMソフト部門総利益率が83%ときわめて高いことによる。

 こうして見ると、わが国最大手NTTデータもIBM、EDSとは規模の大小以上に利益率で大きな格差がある。

 EDSの高度なITサービス力はIBMサム・パルミザーノCEOも脅威と感じており、これからの従量制料金のネットワーク・アウトソーシング(ユーティリティコンピューティング)では、わが国を含めて両社の熾烈な競合が展開される。

 EDSは、世界各国の政府機関、米海軍、英中央政府などでIBMを凌駕する実績をあげている。従ってe-Japan計画の巨大行政電子化市場をもつ国内SPは、EDSの行政機関戦略を研究する必要があるだろう。

■売上減少となったNTTデータのSI事業

 NTTデータのセグメント情報によると、売上構成比でSIが76.6%と高く、ANSER、クレジットカードやデビットカードのインフラとなるCAFISなどを含むネットワークシステムサービス構成比は7.0%にとどまる(Figure27)。

 しかしSI事業前年比売上高は4.0%減少したのに対し、ネットワーク事業は9.5%も増加した。またクライアントの調査コンサルテーション、ファシリティマネジメントを含むその他事業は19.6%も売上高が伸びた。

 NTTデータは富士通、NEC、日立製作所などに次ぐ中央官庁、地方自治体の実績をもち、e-Japan電子行政システムでメーカー系とともに4強を形成している。この分野の伸びが02年度以降期待されよう。

 メーカー系最大手Fsasセグメント情報によると、SI事業である情報サービス売上高は5.8%伸びたが、サポート事業は関連会社へ一部移管したため4.1%減少した。しかしサポートは売上高構成比が24.3%にとどまるものの、営業利益は情報サービスの1.5倍と同社の稼ぎ頭となっている(Figure28)。

 CSKセグメント情報によると、情報サービス売上高は前年比15.9%と大きく伸びたが、機器販売・工事は逆に15.5%減少し、同社売上高伸長を1%台にとどめてしまった。同社の他事業プリペイドカードなどの伸びも小さいため、機器販売の減少、赤字の営業損益は同社にとっても手痛い打撃だ(Figure29)。

■巨大な行政電子化市場で4強競合

 NTTデータとともに、メーカー系NECソフトなどSP大手にとっては、新たに年間2兆円以上の市場となる行政電子化への期待は大きい。

 02年度からは地方・自治体向け市場が本格的に立ち上がる。とくに地方自治体に強いのは富士通系、NEC系、日立系だ。

 行政総合研究所の発表によると、ITで各自治体が取引ある企業比率は、(1)富士通系45.8、(2)NEC系31.1%、(3)日立系13.6%、(4)NTT系12.3%の順序だ。

 この市場では実績のあるメーカー系列が自社顧客を牙城として守り、外資系の参入を許さない構えを見せる。この電子行政市場への期待を02年度計画で明確にするのは、NECソフトである(Figure30)。

 同社は次年度売上目標を1160億円と前年比24.6%増と設定している。また、同社の02年度官庁・自治体・公共売上高目標は前年の299億円から24.1%増の371億円となっている。一方、NECソフトなどメーカー系SPは親会社以外の外販比率を徐々に上げることも狙う。

 いずれにせよ、わが国ITサービス市場は全市場18兆円の55%、10兆円と発表されている(JISA)。この巨大市場に富士通など国産メーカー系、IBMなど外資系メーカー、これに独立系が加わって大激戦が展開される。

 IBMはわが国を含めて従量制料金ITアウトソーシングサービス開始を発表した。わが国SPも従量制料金サービス「ユーティリティコンピューティング」への体制を早急に確立しなければならない。
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