ベンダーが中小企業攻略に足踏みするなか、銀行が中小のIT化推進役として注目され始めた。

 「貸し剥がし」などの言葉が示す通り、中小企業と銀行の関係には齟齬(そご)がある。大手8行の中小企業向け貸出残高は2001年度、前年度に比べ5兆円強減った。銀行の“悪役”イメージは強い。

 それでも直接金融の手段をもたない中小にとって、銀行融資は生命線。生殺与奪を握る銀行が、企業のIT化を融資判断基準の1つにするとなれば、企業経営者の眼の色は変わってくる。

 東京三菱銀行は今年6月、TKC会員企業向け特別融資制度の拡充を打ち出した。TKCのパソコン会計ソフトや経営計画策定システムを利用する会員企業に対し、担保・保証人なしで最大2000万円(融資期間3年)を2.25%の低金利で貸し出す。しかも最短で申請の翌営業日、最長でも5日間のスピード融資を実施する。

 特別優遇はIT化の賜物である。TKC会員企業はコンピュータ化と会計事務所の指導により、「月次決算」など経営管理を徹底している。そのデータは、会員と会計事務所、TKCを結ぶイントラネット上で管理される。そのイントラを通じ融資を申込むので、審査に必要な書類を即座にデジタル送信でき、会計事務所が保証するデータの信憑性は高い。そもそもIT化で経営改善に取り組んでいるので、貸し倒れリスクは一般より低いはず。

 逆に言えば、ITで科学的な経営管理を実施する前向きな中小企業へは、銀行も積極的に融資したいのだ。東京三菱のみならず、静岡県のスルガ銀行は会計ソフトベンダーのインテュイットと提携し、同社製品を利用する企業向けにオンラインで特別商品を提供する。大和銀行を中心とする「りそなグループ」は自ら業務ソフトASPを手掛ける。

 もちろん、「融資を得るためのIT化」は本末転倒だが、現実には銀行の中小企業への影響力は大きい。マイクロソフト関係者は、「我々の名前でITセミナーを開催しても集まりは悪いが、銀行の名前を前面に出すと一気に申し込みが増える」と話す。

 企業経営者は銀行の意向に敏感である。銀行が不良債権処理を進め、融資拡大へ本格的に踏み出した時、中小企業のIT化に火が付くのかもしれない。(坂口正憲)