OVER VIEW

<OVER VIEW>IT不況克服、米有力メーカー戦略を検証 Chapter3

2002/10/21 16:18

週刊BCN 2002年10月21日vol.962掲載

 世界最大のITサービス売上高を誇るIBMがプライスウォーターハウスクーパース・コンサルティング(PwCC)を買収した。IT不況で伸びは縮んでいるが、ITサービスがIT市場の牽引車であることに変わりはない。ITサービスではウェブサービス構築、ユーティリティコンピューティングへの期待も大きい。IBMはこれらで強い競合力を育てるため、業種別コンサルティング力の強いPwCCを買収した。PwCCのサービス統合でIBMはワンストップ型ITサービス体制を確立する。(中野英嗣)

IBM、PwCC買収でワンストップ型ITサービス体制を

■IT市場の牽引役はITサービス

 00年秋口からの世界的IT不況で、パソコン、サーバーなどハードウェアは出荷台数の低迷と価格デフレによる単価低落のダブルパンチを被った。ワールドワイドでの出荷金額はそれぞれ2ケタの大幅落ち込みとなっている。

 一方ITサービスも、経済不況による企業のIT予算縮小、ROI(投資効果)の厳しい追求がシステム開発案件の絞り込みを招き、ITサービス業界の要員過剰感も高まって、サービス単価の大幅値引きなどで従来までの大きな伸びが見られなくなった。

 しかし先進国の大企業は、企業のコアコンピタンスに経営資源を集中し始めたため、完成システムのセキュリティ強化を含めたホスティング(運用管理)サービスなどは堅調に伸びる。

 ハイテク調査会社IDCは、02年も世界のITサービスは前年比6.6%増との強気の見方を発表している。伸び率は若干縮小しても、ITサービスがこれからも世界IT市場の牽引役であることに変わりはない。

 調査会社ガートナーも、ITサービスは今後ウェブサービスシステム構築が世界的に活性化することで、03年より再び大きく伸び始め、この世界市場は05年に7000億ドル(84兆円)近くまで拡大すると予測する(Figure13)。

 現在、ITサービス有力企業はIBM、EDS、富士通、そしてコンパックを買収した新生HPで、この4社が世界のITサービス4強となっている(Figure13)。

 IBMのサービス部門、グローバルサービス(IGS)売上高は350億ドル(4兆2000億円)で、第2位EDS215億ドル(2兆5800億円)を大きく引き離している。

 このトップIBMがプライスウォーターハウスクーパース・コンサルティング(PwCC)を買収した。これによって、単純に合算してもIGS売上高は399億ドル(4兆7880億円)となってEDSとの差はさらに大きくなる。しかしここ数年のIBM、EDSのITサービス売り上げ伸長率を比べると、EDSがIBMを大きく上回り、直近6か月ではIBMはマイナス成長である(Figure14)。EDSは経済不況に左右されない各国政府・公官庁のITアウトソーシング獲注力が強いため、IT不況でも高い伸びを維持してきた。

■異なるインフルエンサーの統合で新ITサービス体制を確立

 IBMはPwCC買収で世界のエンタープライズ対象のインハウスITサービス力を強化できることになった。IBMは世界的にエンタープライズとSMB(中小企業)戦略を明確に分離し、エンタープライズに対しては直販で、SMB相手はIBMチャネルパートナーに全面的に依存している。

 IGSはITメーカーのサービス部門として当然IT部門に強いインフルエンサー(影響者)である。一方PwCCはその企業背景からクライアント企業のトップ層および財務部門、CFO(最高財務責任者)への強力なインフルエンサーであった。

 この2つの異なる影響力をもつ両社の合体で、強力なITサービス体制を確立するのがIBMの狙いだ。

 一方IBMを売上高で追える立場になったHPは、IBMのようなインハウスITサービス力強化ではなく、数多くのコンサルタント企業、ISV(独立系ソフト会社)、IHV(独立系ハード会社)とITサービスでの提携を強化する戦略を選択した(Figure15)。

 エンロン、ワールドコム不正会計でこれに絡んだアンダーセン問題もあって、会計コンサルタント系ITサービスは苦戦し、PwCCも売却の道を選んだ。

 IBMはPwCCがとくにeビジネスのコンサルティング力、そしてビジネスインテリジェンス分野に強いことで、IGS内のビジネスイノベーショングループとPwCCを統合し、IGSに新しいビジネス・コンサルティング・サービスを新設した(Figure16)。

 ITサービスではITインフラ構築やシステム開発・運用よりコンサルティングの付加価値が高い。このためPwCC買収でとくにeビジネスコンサルティング力強化をIBMは狙う。

■水平・垂直統合でワンストップ型サービスを

 IGSはIT部門へのアプローチ力が強いと同時に、ITインフラ構築実績も多く、ユーティリティコンピューティング、グリッドコンピューティングなど次世代ITシステム開発力も優れている。即ち、IGSは全業種共通のITサービス力、水平的アプローチ力が強い。これに対しPwCCは金融サービス、化学薬品、自動車、大型小売業など業務別の垂直的アプローチ力が強い。

 この両社の水平・垂直的ITサービス力の合体によって、ITインフラの上に業種別ノウハウに豊んだeビジネスのコンサルティング、ソリューション構築ビジネスをIBM1社のみで展開できるようになる。

 このようにエンタープライズ対象のワン・ストップ・ショップ型プロフェッショナルITサービス体制確立をIBMサム・パルミザーノCEOは念願していた(Figure17)。

 IBMのPwCC買収目的は、エンタープライズ向けのIBMインハウス力強化と、SMB市場で全面依存するIBMパートナーのITサービス強化の2つだと、IGSのラルフ・マルティーノ副社長は説明する(Figure18)。

 とくにエンタープライズ対象のeビジネスコンサルティングは料金時間単価も500ドル(6万円)近くと高いので、付加価値が大きい。IBMのエンタープライズ向けPwCC買収の大きな狙いはコンサルティング体制強化である。一方米国のIBMパートナーの多くは、「PwCC買収でIBMサービス要員が3万人も増える。これでIGSがSMBに対して直接サービスの触手を伸ばしてくる」と警戒感を露わにした。

 これに対しIGSマルティーノ副社長は、「PwCCのもつIBM以外――SAP、シーベル、マイクロソフト、オラクルなどのソリューションノウハウをIBMパートナーに伝授することも買収の大きな狙いだ」と発言し、パートナー警戒感払拭に懸命である。

 IBMはPwCC要員を受け入れるため1万5000人近くのIGS要員を削減した。エンタープライズ、SMBのいずれに対しても、IBMのパートナーを含めたITサービス力強化で、IBMの狙いは次世代ITサービスの主力ビジネスのウェブサービス構築と、従量制料金のネットソーシング「ユーティリティコンピューティング」の「eビジネス・オン・デマンド」利用へユーザーを誘導することである。
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