大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第55話 ノーベル賞と博士号

2002/10/28 16:18

週刊BCN 2002年10月28日vol.963掲載

大阪電機通信大学 副学長 水野博之

 暗いニュースが続くなかで、最近明るいニュースがあった。今年のノーベル賞で日本人2人が受賞したことである。なかでも田中さんの受賞は日本中を沸かせた。45歳という若さでもらったというのも凄いが、博士号をもっていないというのも面白い。よく言うのだが、博士号というのは本来、運転免許証みたいなものなのだが、これが大いに独り歩きしだしたのは米国の影響のように思われる。これは米国の後進性の表われだと私は思っているが、これが日本でも独り歩きしているところがある。

 聞くところによると、田中さんはあまり博士号に興味がないそうで、仕事一筋と言われている。これこそ、本当のアントレプレナーである。仕事が面白くて、面白くてならないようで、「我が道」をとくと目つけてまっしぐら。とうとう今日の栄誉を得た。まさにアントレプレナーの鑑である。念のために言っておくが、アントレプレナーというのは金儲けに限ったことではない。文字通り、自分の生き方を賭した冒険者であって、そのことによって人類に新しい一歩をつくりあげた人間を言うのである。田中さんはまさにその1人である。

 米国の場合、こんな発明をすると、さっさと会社を辞め、スポンサーを探して自分で会社を起こし、大金持ちになるというのが常道であるが、田中さんの顔を見ていると露だにそんなことは考えていないようで、人々に囲まれて当惑している風情である。これもまた大変ユニークで微笑ましい。こんな若い人を見ていると、日本も大したものだと思う。どうもそんな宝をもった若い人たちの力を抑えつけているのが、日本の閉鎖をもたらしているのではないか。バイオ、バイオと大騒ぎをして大変な金(国民の税金)を使っている関係各位も、この際、猛反省をしないといかんだろう。(京都・嵐山にて)
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