e-Japan最前線

<e-Japan最前線>20.ITベンダーから見たe-Japan戦略

2002/11/18 16:18

週刊BCN 2002年11月18日vol.966掲載

 民間需要が低迷するなかで、IT投資を牽引するe-Japan。年間1兆円以上のIT関連予算の投入が続くなかで、ITベンダー側はe-Japan戦略の動向をどうみているのか。特許庁長官を経て、現在は富士通の電子政府担当責任者である高島章専務に聞いた。

公共コンテンツが新たなIT需要を

 ──e-Japan戦略がめざす世界最先端のIT国家との目標はわかりづらい面がある。

 高島
 IT国家とは何か。行政がサービス業であることを改めてみんなが知ることだ。それが決定的に重要なことだと思う。わかりやすく表現すれば、一般国民の生活がいかに便利で明るくなるかだろう。単に経済活動にプラスになるだけでは国民全体の賛同は得にくい。国民にとって意味のある投資かどうかで判断されると思う。

 ──そうした需要をどのように掘り起こすのか。

 高島
 民間のサービス業に対しては、これまでもさまざまな提案活動を行ってきたが、相手が行政となると勝手が違う面があった。しかし、これからは行政に対しても、積極的に提案活動を展開していくべきだろう。そうした活動を通じて、行政がサービス業であるとの意識を植え付けることが必要で、実際に行政側の意識も随分と変わってきているのではないか。

 ──ITによって新しいサービスの可能性は見えてきたが、住基ネットのように国民が受け入れるかどうかは別のようにも思う。

 高島
 やはり、自分たちの生活がどう便利になるかを具体的に実感できなければ難しいかもしれない。一言で言えば、やはりコンテンツの問題なのだろう。そして将来的には各自治体がどのようなコンテンツを提供するか、で競争が起こることになるだろう。首長に、それを意識している人が増えてきているのは確かだ。

 ──期待される分野は。

 高島
 公共サービスで大きな柱は、教育と医療。この2つであることは間違いない。ちょっと地味だけど、コミュニティの再構築といったものにもITは利用できるだろう。例えば、医療分野ではへき地医療などは自治体にとっては非常に深刻な問題だ。へき地で万一のことがあれば、行政としてはヘリコプターを飛ばしてでも対応しなければならないが、非常に高い費用がかかる。無医村対策にITを活用できれば、国民にも理解を得やすいと言えるだろう。

 ──教育も同じか。

 高島
 例えば、不登校生徒の問題は、民間企業にとって関心は低いだろうが、行政にとって不登校生徒も大切なカスタマーである。とくに自治体の首長にとって、地域で優秀な若者を育てることは最も重要な仕事だ。こうした不登校の生徒に対してITが解決策を与えることができる。すでに、アットマーク・ラーニングというベンチャー企業が、不登校の生徒を対象に教育サービスの提供を始めている。不登校の生徒に国語や理科などの教科を教えてくれる人を探すのは通常なら大変に難しいことだが、ITを使えばそれを解決する手段を得ることができる。

 以前に、秋田市長に会ったとき、秋田市で最も人気の高いコンテンツは何だと思うか、と質問されたことがある。答えは、市の広報誌をデータベース化したもので、過去に起こった身近な出来事を調べるのに驚くほどのアクセスがあるという。自分の住んでいる町の情報は、全国紙の記事データベースを見ても身近な情報はほとんど得られないわけで、広報誌がもっとも身近なニュースのデータベースというわけです。また、大分市では、大分市を離れている人たちを対象に、写真でふるさとの様子を配信するサービスを始めている。ITを使って、ふるさとへの意識をつなぎとめようという作戦だ。

 ――民間とは異なる発想が必要か。

 高島
 かつて、テレビが一般家庭に一気に普及したのも、プロレスの力道山という非常に強力なコンテンツがあったおかげ。インターネット関連機器を一般家庭へと普及させるためにも、コンテンツが重要であり、その鍵を握っているのが、教育と医療ではないだろうか。(ジャーナリスト 千葉利宏)

  • 1