コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第8回 鳥取県

2002/12/23 20:29

週刊BCN 2002年12月23日vol.971掲載

 地域の情報ネットワークが整備されることで、誰でもどこにいても同じ情報を時間差なしに共有できたり、電子申請といった行政情報化により、不便な地域でも適切な行政サービスを受けられるようになる。情報インフラで地域間格差をなくすことは、過疎化の防止に役立つ期待もある。鳥取県が情報インフラ整備を進めるなかで、それに取り残されつつある地域の問題が浮上している。(川井直樹)

情報化は過疎化を食い止められるか 電子県庁構築は着実に前進

■来年度、1ギガネットワークが完成

 鳥取県は県庁所在地の鳥取市が県東端に位置し、第2の都市、米子市は西端にあり島根県の県都、松江市に近い。経済圏も関西に近い鳥取市と島根に隣接する米子市では、完全に異なっている。県内に高速道路網は発達しておらず、むしろ鳥取市よりも米子市の方が瀬戸内海側の岡山県との接続には便利だ。

 「鳥取県西部の市町村から県庁まで来るのに、自動車を使うとたっぷり2時間はかかる」という不便さが逆に情報ネットワーク設置を後押ししてきたのだと、鳥取県企画部の岡村俊作・情報政策課長は説明する。

 鳥取県がまず、情報ネットワーク「とりネット」の整備を開始したのが1996年度。当初は民間回線で伝送速度も毎秒64キロビット。その後、順次増強し、現在では毎秒6メガビットの回線を使用している。

 とりネットを整備したことで、各地域の学校をネットワーク接続する「とり教ネット」の充実や、県内5つのアクセスポイントによりどこからでも市内通話料金でインターネットを利用できる環境ができた。

 さらに、01年度から03年度にかけての整備事業として、主要都市を連結する「鳥取情報ハイウェイ」の整備にも着手した。新しい基幹ネットワークは毎秒1ギガビットの伝送能力をもち、今年度中に鳥取市のNOC(ネットワークオペレーションセンター)と倉吉市のアクセスポイント(AP)、米子市のAPまで接続を終え、来年度には完成する予定だ。

 ただし、各市町村は、その基幹網から庁舎までの回線を市町村振興交付金の活用などで独自に敷設しなければならない。これにより、04年4月には全市町村を結んだ総延長270キロメートルの高速ネットワークが完成する。

 あくまで自設網にこだわったのは、「通信業者の事業計画と必ずしも一致しないため」(岡村課長)という。このあたりが島根県の発想とは180度違うところ。しかし、容量の大きな回線を行政だけで使用するには贅沢すぎる。そこで検討されているのが、「民間でも利用できないか」ということだ。

 大きな産業基盤のない鳥取県だけに、ネットワーク整備を背景にIT産業の誘致に活用したいという意図が見える。

 このネットワーク整備と並行して、学校や公共施設を接続した地域イントラネットの計画が県内各地で立ち上がっている。一方、各地にある県の出先機関も含めて、業務革新を図るために県庁内の業務の電子化も進められてきた。

 県庁職員が出張の際に申請する「旅行伺」や休暇申請については、昨年度から一部ネットワーク上で行われており、来年度にはペーパーレス化を図る予定。さらに、各課の庶務業務処理についても内容を見直すとともに、電子化を図っていく。また、庁内業務の電子決済と文書管理についても今年度に基本仕様決定を終わり、来年度には開発と試験的な運用に漕ぎ着ける考えだ。

 「おおまかな方針は打ち出しているが、財政が厳しいなかで、来年度の予算にどこまで反映されるかが問題」と鳥取県総務部電子県庁推進課の西山秀雄課長は苦笑する。しかし、業務効率化だけでなく、自治体にも対応が求められる国際環境管理・監査規格ISO14001取得といった環境問題への貢献も必要で、電子化によるペーパーレスもそうした活動の一助になると強調している。

■携帯電話不感地域の問題が浮上

 電子県庁など行政の電子化を進める上で問題になっているのが、「人材の不足」(西山課長)だ。

 鳥取県では、コンピュータシステムの運営を全て第3セクターの鳥取県情報センターに委ねてきた。同センターは県庁敷地内の議会棟に本社を置き、県庁のホストの運用・管理だけでなく、県下市町村のシステム運用を行っている。この第3セクターを活用することで電算化を進めてきたが、逆に同センターがなければ、バックオフィス連係といった情報システムの構築や運営ができない状況になっている。

 「電子県庁構築にはノウハウのある人材が不可欠だが、それを鳥取情報センターだけに求めてよいのかどうか」(同)と、公正な競争の維持という点から同センターのあり方が課題になってくる。

 もう1つ頭を悩ませているのが、携帯電話不感地域の問題。県は今年10月、「過疎地区等における携帯電話不感地区解消に向けて」と題する一冊の報告書をまとめた。鳥取県モバイル研究会がまとめたもので、県下過疎地区でのヒアリングなどの結果を報告した。

 携帯電話によるインターネット接続の増加など、単に電話としての機能だけでなく、情報端末として電子申請などにも活用されるシーンが今後増えてくるだろう。

 鳥取県に限らないが、山間地などの過疎地では携帯電話事業者が基地局を設置しないために、不感地区となっているエリアは少なくない。「携帯電話が使えないから若者が村を出て行く、というのはあり得ない話ではない」と、過疎化を進める要因にもなりかねないと岡村課長はいう。

 報告書では、鳥取県下39市町村のうち、不感地区を抱える自治体は半数近い19市町村。世帯数で3180あり、県内世帯数の1.6%を占める。住民へのヒアリングでは、「便利と思って購入したが、自宅では使えないので料金を払いたくない」や、「仕事上、休日でもどこにいても連絡がつくと安心」と、携帯電話が通じないことへの不満は大きい。

 均一な行政サービスを可能にするためにも不感地域を解消したいが、「携帯電話事業者の問題でもあり、行政としてどこまで働きかけられるか」と対策には困っている様子。

 政府は電子自治体構築を急いでいる。しかし、そのスピードについていける自治体は実は少ない。情報通信網を整備すれば、それで大きな進歩というわけではなく、各市町村や住民の全てが同じように参加できなければならない。

 同時に、市町村合併の壁も立ちはだかる。鳥取県では、協議中の合併をスムーズにし、合併後の混乱を避けるために、対象自治体に対しては情報システムの更新や新システムの導入計画をストップするように指導しているという。


◆地場システム販社の自治体戦略

鳥取県情報センター

■第3セクターから民間出資企業への転換も

 電子自治体構築のなかで、その在り方が問われる財団法人鳥取県情報センター。もともと鳥取県庁や県下自治体の電算化を進めるために設置された第3セクターだ。

 県庁だけでなく、県下20市町村の情報処理や運用支援を受託しており、自治体の情報化のカギを握る。しかし、電子自治体ニーズを取り込むために大手ベンダーが相次ぎ事業拡大し、「鳥取県には基盤がなかったが早急に対策を打つ」(大手メーカー担当者)と進出を目論んでいるなか、特別な存在ではなりえなくなってきた。

 「これまで情報センターで基幹部分を受託してきており、ノウハウがある。その部分だけは随意契約で、との思いはあるが、参入してくる大手企業もあり自治体側が公正な競争を意識し始めたのも事実」と糀卓美・総務企画部長。

 「第3セクターという性格から、他県の事業への受託や他の事業に参入は難しい」ことから、大手とまともに競合していくしかない。「SE(システムエンジニア)の人材も揃っているし、これまでのノウハウもある」のが強み。

 競争に勝ち残っていくために、「第3セクターという形でいいのかという点も議論していかなければならない」。民間移行も含めて、電子自治体構築とともに鳥取県情報センターも変貌していく必要性を感じている。
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