三重県は、まず、インフラ整備から始めた。自治体が電子的な媒体を通じて、住民や企業向けにサービスを提供するに当たり、最大のネックとなるのは、ラストワンマイル(基幹通信網が最終利用者に届く最後の末端回線)問題である。都市部では、ADSLなど常時接続型の安価な通信インフラが簡単に手に入るものの、三重県のように中小規模の都市が散在し、山間部も多い土地では、ADSLの普及は困難な事情があった。(安藤章司)

着々と進むインフラ整備 市町村の合併動向がカギ

■県全域にケーブルテレビ網構築

 三重県では、この問題の解決に、県下8社のケーブルテレビの取りまとめを促進し、南北約170キロ、東西約80キロの県全域に統合的なケーブルテレビ網を構築。基幹回線は光ケーブルを使い、ギガビット級の高速通信ができる環境を整えた。一般の利用者も、都市部のADSLの月額料金とほぼ同等の金額で、数メガビットの常時接続型の回線が手に入る。

 このケーブルテレビ網の世帯普及率は2001年度で80%だったが、今年度末にはほぼ100%に達する見込み。三重県の杉野周二・地域振興部情報政策チームマネージャーは、「県下65万世帯のブロードバンド常時接続の基盤の地域格差は、ほぼ解消されつつある」と胸を張る。

 県庁では、このギガビットケーブルテレビ網を総合行政ネットワーク(LGWAN)にも活用している。通信帯域幅は1ギガビットだ。LGWANは行政内で閉じたネットワーク(行政内イントラネット)で、県下の市町村と結び、文書交換などに使う。総務省の規格では、毎秒128キロビット程度の速度で十分とされているが、三重県では、毎秒1ギガビットの回線を用意した。

 県庁は、県下に11か所の出先機関があり、これらを1ギガビットのケーブルテレビ網で結び、さらに市町村へと回線をつなげる計画だ。これらの通信インフラを、仮に専用線で構築したら、およそ4億円かかるという。だが、既存のケーブルテレビ網を活用したため、半額の約2億円で済んだ。「ただ、単純に行政文書の交換だけならば、毎秒128キロビットで十分。だが、三重県では、このLGWAN上で地図情報システム(GIS)や電子自治体機能など市町村向けASP(サービスの期間貸し)の共同利用を想定している。ASPサービスには、太い回線が必要」と、ケーブルテレビ網のLGWANへの活用に踏み切った。

■電子文書管理システム、本格運用へ

 三重県では、01年度から県庁内の電子文書管理システムの運用を始めており、文書の収受から起案、決裁、施行、情報公開、保存、廃棄に至るまで、一連の電子化を進めている。今年度には機能を拡充し、来年度から県庁業務全域で本格的な運用に入る。

 住民や企業からの各種申請書類を受け付ける「汎用受付システム(電子申請)」は、来年度から一部運用を始め、04年度から本格運用に入る。県における申請・届出などの手続きの総件数は計2276件あり、年間平均処理件数は約90万件。このうち、処理件数が1件未満のものを除く1359件の手続きについて、来年度までに38%、04年度までに85%のオンライン化を目指す。

 これら文書管理や電子申請などの情報系システムを支える基幹系システムは、すでに県下の大手システムプロバイダである三重電子計算センター(富士通系ディーラー)などにアウトソーシングを進める。

 県内に今もなお残る富士通製の汎用機(ホストコンピュータ)は、財務や税務などの業務はおこなっておらず、これらの基幹業務はすべて外注化(アウトソーシング)した。県庁内のホストでは、土木工事の進行管理や教職員人事システムなど、比較的“軽い”ものだけとなった。アウトソーシング前は、ホストコンピュータの維持費が年間約4億円ほどかかっていたが、今では庁内に限っての年間維持費は半額近い約2億5000万円ほどに下がった。

 ホストコンピュータに限って言えば、現在全国の自治体で検討が進んでいる「ハードウェアやソフトウェアを所有せず、サービスのみを購入する契約形態」ではなく、単純なハウジング(県所有のハードやソフトを第三者が運用する)にすぎない。

 だが、「ホストの側でも、電子自治体などオープン系のシステムへの対応を急いでいる」(ホストをハウジングする三重電子計算センターの小柴眞治社長)と話す。

 県による電子自治体実現に向けたインフラ整備は着々と進んでいるものの、いまひとつ見えないのが、市町村の合併動向だ。現在、県下で市町村合併に向けた協議を進めているのは、約14グループ(02年11月現在)ある。このうち、法定協議会に至ったのは、県北部の1グループのみ。県下最大都市の四日市市と、その隣に位置する鈴鹿市との合併交渉や、県庁所在地の津市を中心とする10市町村前後の合併案の行方など、まだ不透明な部分が多い。

 杉野マネージャーは、「三重県は、これまで、通信インフラや文書管理など、数十億円規模の投資をしてきた。あとは、市町村とのつなぎ込みをどうするのかという点が残るのみ。県下69市町村のうち、県が用意したインフラを共同で利用する市町村が10団体あるのか、あるいはもっと少ないのか、全部参加するのか見えてこない」と、不透明感をあらわにする。


◆地場システム販社の自治体戦略

三重電子計算センター

■既存データセンター活用で効率化を

 三重県の志摩地区には、海外向けの海底ケーブルが計5本、国内向けの海底ケーブルが1本の計6本が陸揚げされている。ここに、三重県が41.3%出資した第3セクター「サイバーウェイブジャパン」がある。資本金15億円のうち、三重県の他、県下の主立った企業や団体計57団体が出資する。

 県内には、光ファイバーを基幹網に据えたケーブルテレビ網がほぼ全域をカバーしており、ここに海外の海底ケーブルを接続することで、インターネットの海外ゲートウェイへダイレクトに接続しようというのが「志摩サイバースペースプロジェクト」。低廉で高速・大容量の情報通信ネットワークを整備し、地域の情報化、IT関連企業の誘致、ITベンチャービジネスの育成などで、地域の活性化と地域振興を狙う。

 行政が民間企業のビジネスインフラにこれだけ肩入れする背景には、県下の産業力がいまひとつ弱い点にある。

 県下大手のシステムプロバイダである三重電子計算センター(社員数約430人)の小柴眞治社長は、「三重県のビジネスの中心は公共・自治体が占める。当社も今年度売上高約60億円のうち、市町村の売り上げが7割、県庁からが2割を占める。県庁・自治体からは受託計算やアウトソーシング関連が中心で、両方を合わせると全体の9割を占める。民間は残り1割程度」と話す。

 それだけに、自治体ビジネスは最重要課題だ。自治体向けの独自パッケージとして、札幌市のエイチ・アイ・ディ、新潟市のBSNアイネット、岡山市の両備システムズと提携し、4社協同で自治体向けパッケージ、総合行政情報ネットワークシステム「G-パートナー」も開発した。

 同社は、大規模なアウトソーシングに耐えられる設備とノウハウを有しているが、いわゆるハードやソフトを所有せず、サービスだけ購入する次世代アウトソーシングについては慎重論を唱える。

 小柴社長は、「岐阜県の事例のように、電子自治体を構築するのに当たり、ハードウェアもソフトウェアも所有せず、サービスだけ購入する方式が注目を集めている。だが、当社としては、基本的に自治体がそれなりの設備を所有し、そこで集約的に運用する方式が望ましい」とする。

 県下には、北部に三重県や四日市市などが出資する第3セクター「三重ソフトウェアセンター」があり、中部の津市に「三重電子計算センター」、南部に「サイバーウェイブジャパン」がデータセンタを運営する。

 「アウトソーシングを進めるならば、県下の既存データセンターを利用するのが効率的。重要なデータは相互にバックアップして災害対策を施すのもいい。運用は、当社やほかの民間企業が請け負う。新規にデータセンターをつくる案もあるが、恐らく採算が合わない可能性が高い」と分析する。ハードやソフトを購入し、これら第3セクターや民間企業のデータセンターに運用委託するという方式だ。

 三重県地球振興部の杉野マネージャーは、「データセンターは必ず県内になければならないという規定はない。だが、現実として今、データセンターは県内にある。県としては、地元の産業育成や情報システムの運用経費削減などの点から総合的に判断する」と話す。