OVER VIEW

<OVER VIEW>2003年以降のIT市場を展望する Chapter1

2003/01/06 16:18

週刊BCN 2003年01月06日vol.972掲載

 長く続くIT不況も、新しいITシステムの具現化に伴って回復の糸口が見つかるはずだ。これからの投資回復は、これまでの延長線上にあるのではなく業界環境の変化、重点・重視分野の変化の中から新しい潮流が起き、そこに糸口が見いだせるであろう。そのためにも、これまでの投資への厳正な反省も必要となる。IT投資回復は、いつの時代でも新しい技術やアプリケーションの普及がきっかけになる。しかし、何よりもユーザー、業界がこぞって投資対効果(ROI)の精査を通して、目的の明確なIT投資をすることが重要であると、米IT業界は考えている。(中野英嗣)

IT業界を取り巻く環境の変革

■数多くの変化の中でIT投資が回復

 00年秋口からの世界的IT不況は、02年末までに回復への兆しは見られなかった。しかし、03年以降、世界IT業界は環境変化にもまれながらも新しい市場を創造しながら、次世代の潮流に乗るだろう。00年後半から02年末まで世界IT市場は、従来の需要循環では説明できない市場縮小を経験した。ITのTCO(所有総コスト)削減や厳しいROIの精査に耐える、業界が提供した多くのソリューションが結果的に市場縮小の要因になったという動きを見逃せない。そして、03年以降はこの市場構造以外にも、主力アーキテクチャー、処理形態や利用形態にも新しい変化が見られるだろう。

 アーキテクチャーはメインフレーム時代からパソコン時代まで、IBMやマイクロソフトという特別メーカーのプロプラエタリ(メーカー独自)仕様が業界標準(D.f.&.)として市場を支配してきたが、これからはメーカーに依存しないオープンスタンダードが主流になる。そのフラグシップとしてLinuxシェアが上昇している。

 ITの処理形態もセンラライズドからディストリビューテッドへと変化してきたが、次の世代はグリッドコンピューティングという主張も業界では強くなった。そして企業ITもこれまでユーザーがシステムを構築し、これを運用するという形態から、徐々にITサービス事業者の提供するITインフラを共用する「利用」へとシフトすることも想定される。これによってIT業界ビジネスも商品販売からサービス主体へと徐々にシフトする。これらの市場変化によって多くの動きが惹起される。

 ITユーザーを獲得する手法もこれまでのビジネスパートナー、チャネル重点から、特定業種のノウハウをもつコンサルタント、インテグレータなどインフリュエンサー(影響者)を上手に活用することも求められるようになる。新技術開発の視点も、高性能機器開発からオートノミック(自立型)コンピューティングやこれを基盤とするグリッド開発へと移行する。

 アウトソーシングもユーザーアプリケーションを丸ごと抱えるアプリケーション・マネジメント・サービス、そして、究極的には「需要に応じるオンデマンド方式」に注目が集まるようになる。これによって業界主導はメーカーからオンデマンドのサービス業者へ移る。そして企業のIT評価基準もROIの精査へと変化する。これらの変化は急速ではないが、このような変化を予兆させる新しい流れの中にIT業界は巻き込まれて行くことになる。

■従来の投資を反省、新テクノロジーが投資刺激

 IT投資の削減とこれによる市場縮小はユーザーと業界双方にこれまでのIT投資への強い反省を促す。これまでのIT投資に関しユーザーは無駄な投資を続けてきたこと、技術指向の投資重点で組織やビジネスモデル変革への関連追求が甘かったことを共通的に反省している。企業CIO(情報最高責任者)の「IT技術集団の統轄者」という役割の変化も求められよう。

 米フォレスターリサーチは、03年以降、IT投資回復の牽引役は小売業とサービス業だと主張する。これらの業界はデジタルコンシューマの経済全体に対する影響力を重視し、顧客の獲得にITを駆使することを工夫するからだ。コンシューマ向けビジネスはIT革新を自社のモデル変化に直結させる競争となり、これによる顧客満足度の向上も要求される。

 そして、CIOは「IT技術集団の統轄者」から「ITベースのビジネスモデルを計画立案する最高責任者」へと役割が変化する。フォレスターはこれまでのIT投資も新しい技術が普及することで拡大し、今後も新しいインターネットの使い方、Webサービス、有機体(オーガニック)ITが市場回復の牽引力になると説く。新しいネットの利用では、ソフトをダウンロードすることでパソコン用途を拡張して新ビジネスを具現化する「イクゼキュータブル」や、ネット利用機器拡大による「エクステンデッド」インターネットをフォレスターは期待する。

 Webサービスは、新システム構築の期間短縮とコストを削減し、企業間コラボレーションを促進する。オーガニックITは複雑化する一方のITシステムの管理コストの削減に貢献する。これらの技術基盤は既に誕生しているので、その普及開始時期から投資が急速に回復すると考えられる。

■業界共通の課題、ROI精査にユーザーが注力

 IBMはこれまでのITシステムは規模も大きくなり、システムの複雑性も拡大したため、技術の進歩や販売量増大による価格性能比の向上メリットも、システム管理ワークロードが増大したため相殺されてしまったと説明する。この過程で企業IT要員のスキル向上やROIも厳しく精査されるようになった。いずれにしてもこれからのユーザーIT投資では、目的や効果の不明確な案件が許容されなくなる。ここにユーザー、業界共通の課題としてROI精査がクローズアップした。

 米メタ・グループは米国経済の低迷で、米企業のIT投資ではそのROI精査が厳しく求められるようになったと指摘。また、ROI算定は難しいため、米企業で自社のROI査定基準を策定しているのは02年末で8%にとどまると報告している。しかし、企業はROIを企業戦略、ビジネスモデルの変革、それに伴うリスクなど、多くの要因を絡めて算定しなければならない。

 メタは、企業が自社のビジネスモデル固有のROI測定基準をもたなければならないが、共通的には(1)投資目的によるIT分類、(2)ITライフサイクル全体にわたる視点からのROI測定、(3)投資予測効果に幅をもたせることが必要だと主張する。さらに事前だけではなく、システム構築中や運用開始後を含めた継続的な測定の必要性を訴えている。投資目的の分類では、例としてコストの削減、ビジネスプロセスの簡素化、売上高・利益拡大の目的に分けることをあげる。

 また、関連ビジネスの事業経費、保守・運用管理コスト、教育費なども含めなければならない。また、効果も楽観的、悲観的な予測など幅をもたせることも必要だとメタは説く。そしてROI測定は一過性ではなく、構築中から運営に至るあらゆる時点での継続が必要であることも強調する。そしてROI測定重視の過程で「プロジェクト管理」の重視が喚起されるというメリットもあるとメタは説明する。
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