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<OVER VIEW>2003年以降のIT市場を展望する Chapter2

2003/01/13 16:18

週刊BCN 2003年01月13日vol.973掲載

 これからのITビジネスは、インターネット利用形態の変化にともなうビジネスプロセスの変革をベースに考えなければならない。新しいビジネスやこれを支えるITコンセプトとして「オンデマンド」という考え方が浮上し、注目されている。ITメーカーやシステムインテグレータなどの真のeビジネスは「ネット上で商品を販売することではなく、ネットを介してコンピューティング処理パワーをユーザーの要求に合わせて供給するビジネス」である。従ってオン・デマンド時代のITビジネスは、IT統合サービスやビジネスプロセスそのものをネットを介して供給することだと考えられる。(中野英嗣)

インターネット利用とeビジネスの変化

■情報公開、商取引からオン・デマンドへ

 これからのIT市場を展望するうえでは、インターネットとこの上でプロセスが展開されるeビジネスの変化を整理しなければならない(Figure7)。eビジネスソリューションで先行するIBM売上高の40%は当ソリューション関連だと同社も説明するからだ。インターネット利用第1段階で企業はウェブサイトで情報公開し始めた。しかし、ほとんどのウェブサイトはデータの単なる複製、静的情報の域を出るものではなかった。第2段で、ネットは商取引の基盤として利用されるようになった。顧客はネットを介して銀行口座資金移動をしたり、航空会社は座席予約を受け付けるようになった。

 ここで企業ITシステムとビジネスプロセスの統合が始まり、あらゆる種類の取り引きがネット上で可能となり、情報はより高度に活用されるようになった。現在G7諸国企業の4分の3が第1段階にあり、従業員1000人以上の4分の1以上、グローバル大企業の2分の1以上が第2段階へ移行している(フォレスターリサーチ)。これによって世界のBtoB市場は2002年で既に1兆9290億ドル(231兆円)となり、03年以降も大きく伸長する(Figure8)。

 ネット第3段階では全社だけでなく、パートナー、サプライヤー、顧客を含めてビジネスプロセスをend-to-endに統合することが必要となった。このためには顧客の要望、市場変化、外的脅威などあらゆる環境変化に柔軟かつ即刻対応できる「オン・デマンド(必要に応じて)」の体制、サービス提供が求められるようになった。これがeビジネスソリューションにも大きな影響を与える。

■オン・デマンドを求める市場環境の変化

 IBMは02年10月に、同社の今後の主力ビジネスは「オン・デマンド」であることを発表した。IBMはオン・デマンドをユーザーのビジネスプロセスと、これを支えるITインフラの両面に起きる現象だと捉えている。IBMオン・デマンド戦略最高責任者、アービング・ダラウスキーバーガー氏は02年12月来日して「オン・デマンドのポイントは、顧客、パートナー、サプライヤーを含めたビジネスプロセスの統合」だと説明した(Figure9)。

 この前提として、同氏は「顧客ニーズの細分化で、顧客は時間、場所、方法を問わず、ニーズに合ったものを求めるようになった。この顧客要請、ニーズ変化に対応して即刻ビジネスプロセスを変革できるようにするのがオン・デマンド時代に求められるビジネス」だと説明する。そして同氏は「この統合、変革はオン・デマンド対応して迅速に行われなければならない」と付け加える。そして変化の中には地震などの天災、テロによる破壊工作など外的脅威も考慮すべきだと同氏は補足し、このためにITは特定メーカーのプロプライエタリ仕様でなく、オープンスタンダードであるべきと次のように説明した。

 「オン・デマンドでビジネスプロセスを自由に変化させ、これを支えるITを自由に対応させるには、企業内システムと外部システムが統合できなければならない。そのためには、メーカーの製品戦略に左右されることや互換性問題に束縛されることを排除しなければならず、結果的に特定メーカー・プロプライエタリからオープンスタンダードのITシステムへの移行が必須条件となる」

 こうして企業ビジネスプロセスとITインフラの双方にオン・デマンド形式が求められるようになる。

 IBM戦略の是非は別にしても、システムのより広範囲の統合が求められる時代となったのは間違いない。そのため、世界のアプリケーション・インテグレーション市場は02年の60億ドル(7200億円)から年平均15%の伸びで、06年には105億ドル(1兆2600億円)という巨大規模に膨らむ(Figure10)。この市場成長はこれからのIT市場を展望するうえでの1つの指標として役立つだろう。

■オン・デマンド・コンピューティングへシフトする企業環境

 オン・デマンドのビジネスは(1)即応性、(2)柔軟性、(3)集中化、(4)回復力という4つの特長をもつ(Figure11)。即応性は変化への迅速な対応、柔軟性はコスト構造やプロセスが柔軟に変化させられることを意味する。集中化はITインフラの管理はパートナーに任せ、企業はコアコンピタンスに特化すること、そして回復力はどのような環境激変にもビジネスを継続すること(business continuity)を表す。そして、このような新しいビジネス形態「オン・デマンド・ビジネス」を支えるITインフラ、即ちオン・デマンド・コンピューティングは(1)統合化、(2)オープン、(3)仮想化、(4)自律という特徴をもたなければならないとIBMは説明する(Figure12)。

 統合化は、企業外部のパートナー、サプライヤー、顧客のそれぞれのカスタムアプリケーションの水平統合を求める。オープンは外部システムのend-to-endの連携に当然必須の条件となる。特定メーカーに囲われないオープンスタンダードでなければ、ビジネスのモジュール化も困難であるからだ。オープンで重要となるITはJava、XML、ウェブサービス関連仕様、グリッド仕様のOGSA、Linuxなどだ。仮想化は最近のITでは極めて重要な技術となった。仮想化でシステムの複雑性が隠されてしまうからだ。サーバーやストレージのコンソリデーション(統合)も仮想化技術によって実現した。

 仮想化とは、「分散したIT資源を仮想的に1つにまとめて一元的に管理できること」を意味する。仮想化技術の集積によって、多数の分散設置されたサーバーをネットで統合し、処理能力が一時的に不足するサーバーに、他の余剰処理能力を与えるグリッドコンピューティングが実現する。そしてグリッドインフラの上にIT処理サービスを電力やガスのように従量制料金で提供する、ユーティリティ(公共事業的)コンピューティングが誕生する。

 ユーティリティ方式でユーザーは、自由に処理性能の一時的拡大も可能となり、究極のオン・デマンド・コンピューティングが実現する。そして規模も巨大になるネットワーク・コンピューティングでは、もはや人手によるシステム管理は困難となるため、システムが自己管理できる自律的機能が必要となる。オン・デマンドへの移行は長期間を要するがその間にも、統合化、オープン、仮想化、自律的機能はIT新ビジネス展開のキーワードとなるだろう。
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