OVER VIEW

<OVER VIEW>2003年以降のIT市場を展望する Chapter3

2003/01/20 16:18

週刊BCN 2003年01月20日vol.974掲載

 21世紀初頭の世界ITベンダーの開発競争は、オートノミック機能に集中する。複雑化してしまったITインフラの管理を人手から解放し、コンピュータ自身が管理できるようにするのがオートノミックである。オートノミック機能をもつ分散設置されたIT資産を、バーチャリゼーションによって1つのコンピュータのように利用する商用グリッドの実用化時代も来る。この上で展開される究極のコンピューティングサービスが、オン・デマンドでもある。オンデマンドの普及は企業のコンピュータ所有を利用へと大きく変革させる動きにつながる。(中野英嗣)

オートノミックから商用グリッドコンピューティングへ

■オートノミックを必要とするシステムの複雑性

 21世紀初頭、世界の有力ITベンダーは一斉にオートノミック(自律的)またはオーガニック(有機体)と呼ばれるコンピューティングの新しい技術開発に集中し始めた。この狙いはインテリジェントなオープンシステムの実現だ(Figure13)。そこには複雑なシステムの自己管理機能、システム自身がシステムの現状を認識し、システムがチューニングを自動的に継続し、システム上の不測な事態発生に対応、障害発生をできるだけ防止し、万一障害が発生したら自動回復する力、そしてセキュリティ確保・維持機能が含まれ、これが各有力ベンダーの共通課題となった。

 この機能を実装したコンピューティングインフラは、当然高度なITシステムの回復力を含めた数々のメリットを顧客にもたらすことになる。オートノミック機能を最も具体的に説明するのはIBMだ。IBMは2001年5月にITの自己管理機能開発のプロジェクト「eLiza(イライザ)」を発表し、同10月に早くも、この成果を集大成してオートノミック・コンピューティング・マニフェストを発表した(Figure14)。 オートノミック機能の開発に着手した経緯に関して、IBMは次のような説明をしている。コンピュータとその構成要素(プロセッサ、アプリケーション、ネットワーク、……)は、ますます高性能になった。しかし、同時にコンピュータシステムは一層複雑になり、その管理にはさらに多くのIT技術者が必要となった。一方、この状況は皮肉にもIT維持管理が顧客の手に負えなくなり、それをITサービス会社に委託するようになり、ITサービス産業を急成長させたという結果ももたらした。これによって、IBMグローバルサービス部門が全売上高の45%も占めることになった。

 しかし、顧客はもとより、ITベンダーやサービス会社も、複雑化したコンピュータ・システムの管理に人海戦術だけでは対処できないこともわかってきた。ここにシステム自体が自己管理する機能強化が求められた。オートノミック機能を実装したITシステムは自ら、自動的にシステム上の問題を検出し、最適な状態を作り出すことができる。オートノミックコンピューティングは人間の自律神経系のように、最適状態をユーザーが意識することなく作り出し維持する。

■IT産業が直面する課題、利用率が極めて低いIT資産

 オートノミックコンピューティング開発にはヒューレット・パッカード(HP)、サン・マイクロシステムズ、NEC、富士通なども名乗りをあげ、これから激しい競争が繰り広げられることになる。HPが「ユーティリティ・データ・センター」、サンが「Wildcat(ワイルドキャット)」「N1」、NECが「VALUMO(バルモ)」と呼ぶ機能は、いずれもオートノミックである。そこでの各社の狙いは共通で、バーチャリゼーション(仮想化)、ダイナミック・リソース・アロケーション(IT資源の動的配分)、オートマティック・リソース・アロケーション(ルールに基づく自動的資源配分)である(Figure15)。 そして、各社は究極的にこのようなITインフラ上にオン・デマンド(要求に即応)のコンピューティングサービスの展開を計画している。従ってこれからのITビジネスにおいてはSMB(中小企業)向け小規模システムまでオートノミックの実現度が問われることになる。パソコンや携帯端末にも、それぞれオートノミック機能が要求される時代がくる。そして現在、IT産業が直面する課題としてはシステムの複雑性と並んで「既設ITの低い利用率」が浮上してきた(Figure16)。

 IBMによると利用率が高いサーバーはメインフレーム、そして最も低いのはインテルサーバーだ。高いメインフレーム利用率は処理ピーク時で85-100%、そして24時間単位で見ると60%だ。低いインテルサーバーはピーク時で30%、24時間単位では2―5%と極めて低い。ストレージも24時間単位で52%だ。これらの数字は、既設IT資産の遊休時間がいかに多いかを物語る。現在ユーザーとしては、ITのTCO(所有総コスト)の削減とROI(投資対効果)の厳しい精査が求められるようになった。当然、ITの利用率が低いことは、ユーザーの立場からは許されないことだ。ここにITベンダーやユーザーのデータセンターに設置済みのITインフラを有効に活用し合う商用グリッドコンピューティングの需要が高まったのである。

■サーバーコンソリデーションからユーティリティサービスへ

 これからのITシステムの発展ロードマップが見えてきた。オープンスタンダードに支えられたバーチャリゼーション、オートノミックによって商用グリッドコンピューティングが実現する。グリッドは「オートノミック機能を実装された多数分散設置されたIT資産をベースにバーチャリゼーション技術によって、1つの大規模仮想コンピュータを作り出す」ことと理解できよう(Figure17)。

 そして、グリッドはこれまでのWebシステムのような発展形態をとることが想定される。当初は1企業内に設置されたIT資源にグリッド用ミドルウェアを搭載し、企業内グリッド「イントラ―グリッド」が誕生する。企業内にサーバーやパソコンが多数設置された現状を考えると、1企業内で小規模グリッドコンピューティングが実現し、処理性能いっぱいになったサーバーに、他の遊休サーバーの処理能力を供給し合うことが具体化する。

 イントラ―グリッドは次の段階でサプライヤー、ディストリビュータなど、ビジネス関連性の高い企業群内に拡大され、企業間グリッド「エキストラ―グリッド」に発展する。さらに、これがITサービス事業者のデータセンターとも結ばれる「インターグリッド」に発展し、ここにオン・デマンドのコンピューティングサービス「ユーティリティコンピューティング」が具現化する。こうしてe―ビジネス基盤の拡大と共にサーバーコンソリデーションが多くの企業で行われたが、これがデータセンターのバーチャリゼーションとなり、これらを技術基盤として公共サービス的なコンピューティングサービス利用に発展する(Figure18)。これがユーザーのITに対する要求への究極的ソリューションだとIT業界は考えているのだ。
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