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<OVER VIEW>IT不況、米国業界はSMBに活路を Chapter2

2003/02/10 16:18

週刊BCN 2003年02月10日vol.977掲載

 米国で独走するデルにも多くのマーケティング上の課題が指摘されている。デルは自社最大の問題点は、(1)世界的にSMB(中小企業)市場が未開拓(2)ITサービス売上構成比が低い――の2つであることを十分認識している。このため同社は03年に向けてハード販売で成功した低価格モデルをサービスに持ち込み、これにデルのダイレクトモデルを絡み合わせたSMB戦略を打ち出した。デル会長も「デルが大きなシェアを獲得した中堅・大企業においてWintel商品はサチュレーション状況」と繰り返し述べている。(中野英嗣)

デルのSMB対象低価格サービスパック

■安定化、見方を変えれば硬直化のデル経営指標

 世界のWintel市場で独走するデルの堅調振りは、その安定した経営指標が1つの証となろう(Figure7)。

 総利益率は17―18%を確保し、しかも販売費率を8%台に維持しているので、営業利益率も7%以上と極めて安定している。デルがパソコン、インテルサーバー市場で独走するのは、従来20%台であった総利益率を17%台に下げても、それに応じて販管費率を10%から8%台に下げて高い営業利益率を確保する経営モデルを定着させたからである。

 即ち、デルは自ら価格破壊を演出して他者を振り切る戦略を確立した。これによって2002年の世界パソコン市場において、デルはコンパックを買収したヒューレット・パッカード(HP)を押さえてトップ15.2%のシェアを確保した。第2位はHP13.6%、3位IBM5.9%である(IDC)。

 世界パソコン出荷台数が02年、前年比1.5%増と微増にとどまるなか、デルは独り台数を20%伸ばし、通年シェアも2.3%増となってトップを堅持する。デルとHPは僅差に見えるが、現在の出荷台数傾向を見ると03年以降、その差はさらに大きくなると予想される。これによってデルの03年1月決算売上高は前年比20%増と予想される。

 直近年決算売上高は前年比HPが10.8%減、IBM5.5%減であるのに対し、デルの売上高伸長率は20%と極めて大きい。しかし、デルの安定した経営指標は見方を変えれば硬直化との指摘も受ける。特にデルの経営指標で研究開発費率が1%台と極めて低いことは、Wintel専業から脱し、総合ベンダーを目指すデルにとっては大きな問題である。

■デルはサービス付きSMB開拓を決断

 デルで指摘される低いR&D率も、総利益率が17―18%台で8%台の営業利益率を維持する前提に立つと、これ以上のR&Dを捻出する余力はない。R&Dを増やすには、総利益率を伸ばさなければならない。

 デルは現在、ストレージや通信機器、PDA、プリンタ、POSなどに進出し、さらにLinuxベースの大型スパコンクラスタでも出荷シェアを大きく伸ばす総合ベンダーだ。総合ベンダーのR&D率は富士通6.8%、HP6.5%、IBM5.9%で、これに比べるとデル比率の低さが目立つ。

 デルの問題点の多くはWintel市場でのSMB(中小企業)シェアが低いこと、およびITサービス売上構成比も10%と低いことだ(Figure8)。

 わが国を含めてデルユーザーは中堅・大企業ユーザーが圧倒的に多く、SMBユーザーが少ない。大企業ではパソコンサチュレーション現象も顕著で、このためにはデルにとってSMB市場開拓は必須の課題である。

 デルはSMBを狙ってノンブランド、ホワイトボックスを米国で02年8月に投入した。しかし、ダイレクトモデルで成長し、SIer、VARなどのチャネルを敵視してきたデルに、チャネル経営者は心を開いていない。02年12月時点米国で、デルのホワイトボックス販売に関心を示すチャネルは8%にとどまる(Figure9)。

 こうしてデルは再び、SMBに対してダイレクトモデルで市場開拓する決断をした。デルのSMB開拓はITサービスを柱とするものだ。これでデルはSMB市場を開拓すると同時に、サービス売上高を伸ばし総利益率向上も狙う。このためデルはマイクロソフト「.NETサポート」で注目された米プルラルを買収した。

 デルサービスの基本的考えは、IBM、HPなどが唱える従量制料金を否定し、あくまで定額制を貫き、しかもその価格は同社がハード販売で成功した低価格が大きな目玉だ。デルプロフェッショナルサービス担当、ジェフ・リン副社長は「デルは多くのSMB経営者がITの全面アウトソーシングを望んでいないことを前提にする」と前置きし、ITサービス基本方針を次のように語る。「車のドライバーをシートに座らせたままで効率の高い運転を支援する。これがデルのSMB対象ITサービスのコンセプトだ」(Figure10)。

■サービスも低価格でデルの本領を発揮

 デルはITサービスでユニシス、ワング、あるいは多数の地域サービス会社を活用するが、プルラルに続き多くのサービス会社買収によって自社内サービス強化を推進する。そして02年末から03年頭にかけてデルは、SMB対象のサービスパックを発表した。サービスパック第1弾にはネットワークデザイン、インストレーション、オンライントレーニングが含まれる(Figure11)。

 これにヘルプデスク、システムデザイン、ITセレクト、リモートマネジメントなどのパックが今年前半に追加される。デルは成功したハード販売の価格破壊をサービスでも演じ、これでSMBシェアの急速な伸びを狙う。オンライントレーニングなどは1年間、1企業に対し人員を問わず99ドルという安さだ。 しかしデルは、SMBサービスに関して安いとはいえ、1品1品きちんと価格を定めて請求する。

 しかし、米国においてはわが国同様、経営者の「ハード以外はすべてタダ」という要求に対するSIerとのかけ引きによってSMBビジネスは成り立ってきた。このような商習慣を打破できるかという疑問が多くの米SIerから提起されている。低価格を売りとするサービスパックによってSMBを直接開拓するデル戦略に対して当然、米SIerは対抗心をあらわにする(Figure12)。

 「基本的にデルの低価格サービスを柱とするSMB戦略について2つの課題が指摘できる」とUBSウォーバークのアナリスト、エレン・ダニエル氏は次のように語る。

 「第1は人件費が主要コストであるITサービスに、デルがハード販売で成功したデルモデルのコスト大幅圧縮が可能か。第2はSMB市場動向を知りつくしたチャネルを排除したダイレクトモデルが有効か」

 ダニエル氏の質問に対し、デルのマイケル・デル会長は「何十万社、何百万社で利用できるリユーザブルシステム開発で、サービスコストは劇的に下げられる。またプルラルに続いてSMBサービスに熟知した何十社かのサービス会社買収によってデルのインハウスサービス力を早急に高める」と答えるにとどまっている。
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