WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第144回 アウトソーシングの目的が変化

2003/03/03 20:29

週刊BCN 2003年03月03日vol.980掲載

 IBMが従量制課金を基本とする究極のアウトソーシングサービス「eビジネス・オン・デマンド」を発表した。このサービスは、市場の変化に即応してユーザーが要求するITシステムを即刻変化させること、即ち「オン・デマンド」サービスであることがうたい文句だ。IBMの同サービスは、ITインフラのアウトソーシングだけでなく、顧客の要求する電子商取引、電子調達などeビジネスのプロセスそのものを提供する「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」を含む。

対IBMオン・デマンドで見解割れる

 IBMの新サービスに対して多くの米国エンタープライズCIOは「われわれはまだIBMサービスにコミットしたわけではない」と語り、そのサービスのもたらすメリットを分析中であることを示唆する。しかし、金融大手JPモルガン・チェイスは7年間で50億ドル(6000億円)の基本料金で、IBMとオン・デマンド利用を契約した。「最近では米国エンタープライズが共通的にアウトソーシングする狙いを徐々に変化させていることに留意すべきだ」とメリル・リンチのCTO、ジル・ミューレン氏は語っている。

 米インフォワールド誌のアウトソーシングの目的に関するCIO調査でも、従来の「ITコスト削減」や「経営資源をコアビジネスに集中する」のに加えて、「市場の変化に迅速に対応する」32%、「ビジネスプロセスに集中する」66%、「ITコスト削減」61%、「社内にないIT機能を利用する」52%、「システム上のリスク軽減」43%が目的の上位を占める(複数回答)。「リスク軽減」目的の回答が増えているのも最近の傾向だ。

 これは、エンタープライズIT部門に負わされた課題、「災害発生時のIT回復力強化(ディザスタリカバリー)」や「災害発生時にもビジネスを中断しない(ビジネスコンティニュイティ)」が背後にあるためだ。当然これらの目的は9.11同時多発テロ発生後に、その回答比率が急上昇した。従来のアウトソーシング利用でも「コアビジネスへの集中」「ITコスト削減の狙いはある程度実現していた。しかし、米国エンタープライズがアウトソーシングを利用する狙いではこれまで、社内ITスタッフの削減あるいは、新ITシステム開発プロジェクトを短期的に完了するなどが主要な項目であった。

 しかし最近、多くのエンタープライズCIOは「社内でITを全面的に運用管理している限り、新ITシステムでも社内ビジネスモデルを変化させるのは難しい」と語るようになった。このためこれらCIOが考えるアウトソーシングでは「ビジネス変化を短期間に成し遂げる」、「不確定要因の管理機能を向上させる」という新しい狙いが増えている。メリル・リンチのミューレCTOは「これからのアウトソーシングはIT部門負担軽減が主要目標であってはならず、アウトソーシングをビジネス変革を促進するために利用すべきだ」と総括する。(中野英嗣●文)

  • 1