大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第73話 ニューコメンの機械

2003/03/10 16:18

週刊BCN 2003年03月10日vol.981掲載

水野博之 高知工科大学副学長

 膨張する蒸気の力をどう利用するか。いろいろな工夫がなされた。膨張する圧力で水を押し上げることもできるだろう。しかし、これにはかなりの細工がいる。それより膨張した蒸気が冷えると、凝縮し密閉した容器の中では真空状態が生じるから、この力を利用して水を汲み上げたらどうか。

 こういった工夫は人々の想像力を刺激したのであった。ワット以前にも蒸気の力を利用して水を汲み上げる装置はいろいろと工夫されていた。トーマス・セバリーは卵型のタンクをもったボイラーを加熱し、蒸気が充満したところで、タンクに冷水をぶっかけ、蒸気が凝縮する力で水を吸い上げる装置を考え、これを“鉱夫の友”と名付けて、大々的に宣伝した。この装置は大変気むずかしい友人であったようで、人々はその機嫌をとるのにくたびれ果てる始末であった。

 セバリーから、ドニ・パパンなど多くの発明者が出たが、どれも実用にはならなかったのである。初めて実用に耐える装置をつくりあげたのは、トーマス・ニューコメン(1663-1729)であって、1712年のことである。まだワットは生まれていない。ニューコメンの機械は大変重宝され、1769年頃までには100台以上のものが使われるようになった。ニューコメンの機械はたしかに実用的で馬に代わる力を発揮したが、その欠点は大変石炭を消費するということであった。

 石炭を掘るために大変な石炭を使ったのでは、何をしているのやらわからないことになる。これは要するに、ニューコメンの機械は大変非効率的であったのだ。このニューコメンの機械を改良することによって、ジェイムス・ワットは人類の歴史を変えた産業革命の父と呼ばれるようになるのである。しかし、そのようなチャンスもまた、運命の女神の気まぐれから始まったことを忘れてはならない。(大阪・道修町にて)
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