OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter4

2003/03/24 16:18

週刊BCN 2003年03月24日vol.983掲載

 厳しいIT業界で、大幅な増収増益を達成しているのはマイクロソフトとデルのみだ。デルはパソコンやインテルサーバー市場が低迷するなか、唯一出荷台数を大きく伸ばし、Wintel市場で独り勝ち体制を固めた。デルの独り勝ちは、安定した経営指標が証となる。しかし、この指標は安定化と同時に、硬直化しているとの指摘も米ウォールストリートでは出ている。Wintel専業から総合ベンダーへの転身を目指すデルにとっては、有力ベンダーとしては極端に低い研究開発費を大幅に増やすことも重要な課題である。(中野英嗣)

デル、Wintel市場で独り勝ち

■IT業界が不況の嵐でも独り大幅な増収増益

 2000年が世界IT市場規模のピークで、同年秋口からIT業界は不況の嵐にさらされている。02年の各社売上高は00年比でIBMが8.2%減、ヒューレット・パッカード(コンパックを合算)が20.6%減、そしてサン・マイクロシステムズが36.5%も下落しているなか、デルコンピュータは11.0%も伸ばし、03年1月の同社売上高は354億400万ドル、純利益も売上高比で6.0%、21億2200万ドルに達している(Figure19)。

 世界のパソコン、インテルサーバーのWintel市場でデルは、98年から躍進し始め、この4年間で同社売上高の年平均成長率は18.0%と極めて高い。このデル躍進でHPはコンパック買収を決断したともいえる。しかし、HPはコンパックを買収しても世界パソコン市場でトップの座は奪えなかった。

 IDCによると、02年の世界パソコン出荷台数シェアは1位デル15.2%、2位HP13.6%、3位IBM5.9%となった。02年パソコンの世界出荷台数は前年比1.5%の微増1億3602万台で、出荷台数は200万台増にとどまった。このシェアから逆算すると、デルの出荷は01年比285万台増で、世界市場の台数増を上回る。この結果、02年出荷台数は前年比でデル16.0%増に対し、HPは24.6%減、IBM6.4%減、NEC12.0%減となり、世界パソコン市場でデルは他社のシェアを浸食するカニバリズム(共食い)に勝利した(Figure20)。

 デルのWintel市場での勝利は、わが国にも影響がおよんでいる。02年国内パソコン出荷台数が大きく減少するなか、デルはシェアを3.6%も伸ばし、1位NEC22.4%、2位富士通21.4%、3位ソニー13.5%に次ぐ第4位8.0%のシェアを獲得した。パソコンよりも国内ではインテルサーバーでのデル躍進が著しい。02年の国内同サーバーシェアは、1位NEC25.1%、2位富士通17.0%に次ぐ、第3位16.4%シェアを確保した(マルチメディア総研)。インテルサーバーではデルが国内第2位の地位を獲得するのも至近距離となった。国内インテルサーバーでデルは、HP、IBMのシェアを奪ったのである。

■極めて安定しているデルの経営指標

 99年からのデルの総利益率、売上高比の販管費率、営業利益率は極めて安定し、デルの独り勝ちを数字の面から裏づける(Figure21)。

 ここ2年デルの総利益率は17%台、販管費率は8%台で、これにともなってリストラなど一次経費を除くと営業利益率は7-8%を維持している。デルは低価格、ユーザー要求仕様で組み立てる「BTO(ビルドトゥオーダー)」生産のダイレクトモデルで市場シェアを拡大してきた。即ち、デル自らが価格破壊を演出し、他社を振り落とす戦略が功を奏しているのだ。

 デルがこの価格破壊を演出できるのは、自社価格の値下げにより総利益率が低下するものの、これにともなって販管費率も下げ、一定の営業利益率を維持する経営モデルを確立できたからである。即ちデルの価格破壊演出のキーは次のような方程式にある。

 「総利益率-(販管費率+研究開発費率)=一定」

 総利益が低下すれば経費もデルは下げられるのである。

 また、354億ドル(4兆2484億円)と米国でもIBM、HPに次ぐ巨大ベンダーとなったデルの研究開発費率が1%台と極めて低いことも、デルモデル成功の理由だ。デルはこれまで、パソコン、インテルサーバーというインテルとマイクロソフトのアーキテクチャだけを使うWintel製品に特化してきたため、プロプライエタリ仕様を自社開発するIBM、HP、サンに比べてこの費用を小さく抑えることができた。

 デルモデルの勝利はデルの極端に低い在庫有高にも表れる。デルの在庫有高日数は年々低下し、03年1月末決算では3.5日となった。デルを追うHPと比べると、デルの在庫の優位性が明確になる。決算日にデル在庫はわずか3億600億ドルであるのに対し、売上高でデルの2倍のHPはデルの19倍、57億9700万ドルの在庫を抱えている(Figure22)。

 また、デルはインテルなど部品メーカーの工場や倉庫を自社工場に隣接させることも徹底するなど、在庫圧縮、ロジスティックス(物流)でも他を寄せ付けない。

■独り勝ちデルにも多くの課題が

 HPは02年11月-03年1月の03年第1四半期決算を発表した。同四半期でデルの売上高は前年同期比20.8%も伸びたが、逆にHPは8.8%も減少した(Figure23)。同四半期のデルは出荷台数を米国、欧州、わが国を含むアジアで大きく伸ばしたが、HPは相変わらずプリンタを除く他のセグメントではそれぞれ売上高を2ケタ減らしている。このように勢いを持続するデルであるが、多くの課題も米投資筋から指摘されている(Figure24)。

 それはデルがWintel専業から通信機器、プリンタ、PDA、POSなどに加えて、大型Linuxサーバーでも高いシェアを獲り、総合ベンダーへ転身し始めているからだ。「安定している経営指標も見方を変えれば硬直状態とも考えられる」との指摘もウォールストリート筋は発する。これは現在の低いデル総利益率では8%以上の営業利益率確保は難しく、さらにこの利益率確保を条件に、これ以上の研究開発費捻出の余力が乏しいとの指摘だ。

 Wintel専業から脱するデルには、より多額の研究開発費が要求されるからだ。さらにデルモデルは、力を付ければ経費が極端に安い中国ベンダーが模倣しやすい。これも先行きの懸念材料である。さらにデルの低いITサービス構成比や、ユーザー層が世界的に中堅・大企業に偏在し、SMB(中小企業)市場でのシェアが低いこともデルの課題だ。

 このことを意識してデルは、米SMB向けに02年夏、ホワイトボックスを投入したが、これまでチャネルを敵視し続けたこともあって、デルとの協業を望むSIerは少ない。このため、デルのマイケル・デル会長は、SMB市場に対しても中堅・大企業向けに成功してきたダイレクトモデルで対応することを決断した。自社でのITサービス強化のため、.NETサービスで力をもつサービス会社「米プルラル」に続いて、多数のサービス会社買収も交渉中とデル会長は発言する。しかし、チャネル協力なしのSMB市場開拓には疑問の声も強い米業界だ。
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