OVER VIEW

<OVER VIEW>構造的不況下、世界市場での米IT企業決算 Chapter5

2003/03/31 16:18

週刊BCN 2003年03月31日vol.984掲載

サン、減損費用発生で巨額最終赤字に

 米国IT投資の大幅削減もあって、米国市場ウエイトの高いサン・マイクロシステムズの苦しい経営は続く。さらに同社は、買収企業資産の巨額減損費用も発生したため、2002年12月までの年間で24億ドル、売上高比で20%近い巨額赤字に陥った。サンはハードなど製品売上高の大幅減少をITサービス伸長で補う。このため、同社のITサービス構成比もヒューレット・パッカード(HP)の2倍近くに達した。サンの売上高減少は世界共通だが、とくにわが国での売上高はUNIXサーバー市場の2ケタ減もあって、米国、欧州より大きな落ち込みとなっている。(中野英嗣)

■無形資産の減損で巨額赤字に陥ったサン

 02年10-12月の四半期にサンは、コバルトなど買収企業営業権や無形資産の減損にともなう21億2500万ドルの巨額費用発生により、22億8300万ドルの純損失を計上した。サンはドットコムバブル崩壊とIT不況の直撃を受け、01年より売上高が大幅減少となり、同年から赤字に陥っている。02年1-12月の年間(サン年決算は6月)で売上高は前年比13.3%減、純損失も前年の5億6300万ドルから24億1100万ドルに膨らんだ(Figure25)。

 サンの売上高ピークは00年で、これに比べると02年は36.5%減と極めて大きな落ち込みとなった。米国有力通信機メーカーのノーテル、ルーセント、コーニングは米テレコム不況で、ピーク時から軒並み売上高を50%前後減らしているが、ITではサンとストレージのEMCの売上高落ち込みが特に激しい。EMCもピーク時比で売上高が38.7%減少した。

 00年までの超優良会社から巨額赤字に陥ったサンの経営指標は、この間大きく変化した(Figure26)。

 総利益率は50%以上であったが、現在は40%前後となった。これは、サンの主力ハイエンドUNIXサーバーの価格破壊が激しく、ローエンドUNIXはLinuxインテルサーバーとの価格競合が激化しているためだ。販管費・一時経費率も減損費用発生で70%を超えた。

 サンはLinuxインテル商品も発売したが、主力は自社チップSPARCと自社OS Solarisのプロプライエタリアーキテクチャのベンダーであるため、継続して巨額の研究開発投資が必要である。これは売上高が減っても大きく減らすことができない。このため、サンの売上高減少にともなって、研究開発費率は15.8%にも達し、サンの経営を厳しくする大きな要因となっている。IBMなども多額研究開発費を投入するが、その売上高比率は6%前後で、サンの当比率が業界でも突出していることが判明する。

■IT業界全体でもエンタープライズ不況が激しい

 全世界的にIT不況となっているが、とくに米企業のIT投資が大きく減っている。フォレスターリサーチによると、00年に5430億ドル(65兆円)であった米国IT投資は、01年は22.5%減の4210億ドル(50兆円)、02年はさらに7.8%減3880億ドル(46兆円)となって、ピーク時比で28.5%も減少した。このような米国IT投資削減の直撃をサンは受けている。

 これはサンのみでなく、IBM、HP、EMCなどエンタープライズプレーヤーは軒並み、当分野の売上高を減らしている。HP・コンパックは19.7%減、IBMは7.9%減、そして、サンのサービスを除く商品売上高は39.4%も減った(Figure27)。

 このように、エンタープライズ商品売上高を各社が大きく減らしているが、サンとEMCの減少幅はとくに大きい。

 さらに、サンの売上高は世界的に大きく減少している(Figure28)。とくに02年、サンの日本国内市場売上高の前年比は37.7%減となり、米国、欧州よりも落ち込み率が大きくなっている。サンは国内でも大苦戦している。

 IDCによると、02年国内UNIXサーバー出荷金額は前年比で15.8%減となり、インテルサーバー16.9%減とともにその市場は大きく縮小している。

 サンは国内市場縮小幅より大きく売上高を減らしている。とくにわが国でもローエンドではLinuxサーバーの躍進が目立ち、ハイエンドUNIXではIBM、HPが勢いを付けており、サンは苦戦を強いられているからだ。サンはLinuxサーバーに加えて、Linuxクライアントの投入も発表しているが、Solarisサーバーの出荷を回復しない限り、さらに売上高減少が続くだろう。

■IT業界全体でもエンタープライズ不況が激しい

 製品売上高が大幅に減少するサンも、ITサービスは急激に伸びている(Figure29)。

 ITハード市場では出荷減少や価格デフレが激しいため、ITサービスがこれからの市場牽引の主役として期待されている。この脱ハード戦略を数字面でも見事に実証しているのはIBMで、同社ITサービス売上高構成比は99年の36.7%から02年には44.8%まで伸びた。

 これに対し、HPのサービス構成比は微増にとどまっている。逆にサンのITサービス売上高は製品売上高が大幅減少するなか大きく伸びている(Figure29)。99年16億3500万ドルのサービス売上高は02年には34億300万ドルと2倍以上となった。

 さらに、サンのITサービスで注目すべき点は総利益率の高さである。IBMのサービス総利益率が26%前後で推移するなか、サンは40%前後と極めて高い。従って総利益率の高いハード売上高が減少しても、サービスが伸びれば利益に大きく貢献でき、この点からサービス売上増はサンにとって大きい。

 製品売上高が大きく減るため、ITサービスが大きく伸びるサンは当然、サービス構成比も大きく伸長する(Figure30)。

 HPのサービス構成比が16-17%で低迷するので、サン構成比はHPを大きく上回ることになった。しかし大きくなったとはいえ、サンのサービス売上高は製品の40%程度で、サービスがサンの売上高回復を牽引するだけのパワーはなく、減少幅を小さくするだけの効果にとどまる。

 また、当然のことながらITサービスは強力なハード競合力を基盤とするので、これが弱体化しているサンにとって、継続的サービス伸長は期待できない。しかし、サンは一時の極端な売上減や利益減からは脱しつつあるように見える。

 02年12月四半期決算で同社スティーブ・マクガワンCFOは次のように語った。

 「厳しい経済環境であったが、前四半期比で売上高と総利益を伸ばし、営業経費も圧縮して営業キャッシュフローもプラスに転じた。さらに当社バランスシートは全般的に健全で、キャッシュと有価証券は50億ドル(6000億円)以上、ネットエクイティは70億ドル(8400億円)に達している」。これに対しソロモンスミスバーニーには次のようなコメントを発した。「苦しい企業はどこでも決算発表でキャッシュ有高を誇示する。しかしウォールストリートではこのキャッシュの強調そのものが経営のひっ迫の証と理解している」
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