コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第25回 和歌山県(上)

2003/04/28 20:29

週刊BCN 2003年04月28日vol.988掲載

 総務省はこのほど、全国8か所を対象に「ITビジネスモデル構想地区」を選定した。ITビジネスモデル地区になることで、地域イントラネット基盤施設整備事業や先進技術型研究開発助成など、政府の補助事業で優先採択される。その中の1か所として選ばれたのが和歌山県田辺市と、隣接する白浜町だ。IT企業の誘致に力を入れる一方で、和歌山県が取り組まなければならないのが地域情報ネットワークの整備と、県内各市町村のIT化をどのようにリードしていくかという方策だろう。(川井直樹)

田辺市と白浜町、ITビジネスモデル指定地区に 高速ネットワークなど「受け皿整備」が急務

■IHS構想を呼び水にソフトハウス数社が進出

 もともと田辺・白浜地区にIT企業を誘致しようという活動は、田辺市、白浜町とともに県の商工労働部新産業室が中心になって進めてきた政策。長引く景気低迷で、大手製造業の和歌山県進出は皆無。また、すでに立地している企業でも、リストラによる人員削減や生産撤退による影響が大きい。

 そうしたなかで、開発型IT企業ならば、人材の必要性や賃貸料の低減を狙って、情報通信インフラが整備されていれば進出する可能性は高い。

 田辺市は和歌山県第2の都市であり、産業誘致の拡大は必要。さらに、白浜町は大手企業の保養所の閉鎖や売却が相次ぎ、それら遊休施設が防犯面からも問題になっている。

 これらの思惑が一致して、田辺・白浜地区を対象に「IHS(イノベーション・ホット・スプリング)構想」をまとめIT企業の誘致に乗り出した。最初に進出を決めていたのは、IHS構想に一役買ったソフトハウスのクオリティ(東京都千代田区)。その後、アスクソフトクリエイト(東京都中央区)、ギガプライズ(東京都台東区)が進出を決めている。クオリティの場合、社長の浦聖治氏が和歌山県出身ということも、実情を良く知るという意味で進出に踏み切れた大きな要因だろう。

 白浜町にとってIHS構想にかける期待は単純だ。「白浜町に都銀の支店はないが、すべての都銀の保養所があった」(白浜町企画観光課・愛須康徳氏)と言うほど、1960年代から70年代にかけて大手企業の保養所が相次いで建設された。その保養所も景気後退による企業の倒産や合併、資産売却で次々に消えて行き、無人の施設だけが残った。

 「ピーク時には110か所あった施設が、現在は半分以下に減っている」(愛須氏)という惨状だ。その施設を有効活用するためにどんな策があるか、という答えが「IT産業の誘致」というわけだ。

 ソフト産業を誘致する条件が、情報ネットワークをはじめとしたインフラの整備。近く田辺市に開設されるIT総合センターばかりでなく、企業が購入する遊休保養所にも無線LANや高速ネットワーク環境の整備が不可欠になる。

 さらに、ITビジネスモデル地区に指定されても、解決すべき大きな問題がある。それは、企業の保養施設の規模が大きいため中小のソフト開発企業には購入しにくい点。「基本的には、遊休資産となっているケースや不動産会社が保有する物件を購入する」ことを県も白浜町でも想定しており、企業にとって資金的な負担は少なくない。しかも、施設は老朽化しているため、リフォームも必要になる。

 いくら東京から1時間弱の南紀白浜空港が隣接し温泉や環境の良さをアピールしたり、進出企業に対する優遇策を県内他地区に進出する場合に比べて有利にしても、結果的に進出する企業が少ないのは、その辺に原因がありそうだ。

 「町で購入し賃貸するといっても財政に限界がある」(愛須氏)状況では、計画ばかりが先行し、成果の少ないプロジェクトにもなりかねない。そこで県をはじめとして、「早急に受け皿を整備しなければならないという考えでは一致している」(谷口恵美・和歌山県商工労働部新産業室立地プロジェクト班主任)ことから、和歌山県、田辺市、白浜町の3者による協議を積極的に進めていく考えだ。行政で施設を用意し、そこを賃貸する形でソフト企業の進出をサポートしようという方法だ。

■誘致は東京のIT企業を中心に

 こうした方法は全国各地でも実例がある。和歌山県も海南市の海南インテリジェントパークに、第3セクターの和歌山リサーチラボを置いている。

  同社は、海南インテリジェントパークの中核施設としてレンタルラボなど賃貸スペースを備えており、すでにIT関連企業も進出している。海南インテリジェントパークと和歌山リサーチラボへの企業誘致については、和歌山県新産業室、和歌山リサーチラボ、海南市商工振興課がそれぞれ担当する。

 IHS構想に加え、ITビジネスモデル地区に選定されたことで田辺・白浜地区への企業誘致が優先されるのではないかという点については、「海南インテリジェントパークは関西国際空港に近く、それだけ世界に近いということ。対象は東京の企業だけではない。一方、田辺・白浜地区の南紀白浜空港には東京便しかないので、進出するのは東京のIT企業が中心になる」(石尾悦三・海南市産業情報部商工振興課課長補佐)と住み分けはできているとする。

 和歌山県新産業室がIHS構想で誘致を働きかける対象は東京のIT企業が中心で、2002年度に訪問した43社すべてが東京に本社のある企業だ。

 ITビジネスモデル地区に選ばれたことを弾みに、和歌山県ではさらに誘致活動を広げる考え。「受け皿の検討がその1つ、引き続きアンケートも続けていく。和歌山県東京事務所に業務をシフトすることも考えている。進出する可能性のある企業を正確に把握するために、現地の見学会も限定したメンバーにしたい」(谷口主任)と、誘致活動の効率化を課題に挙げる。

 これまでの現地見学会が、「物見遊山的な部分もあった」との反省もある。IHS構想として進められていたプロジェクトについて、総務省のITビジネスモデル地区指定へ手を挙げたのは、実は新産業室ではなく和歌山県の情報政策課だ。地域情報化を一段とスピードアップすることが、ITビジネスモデル地区になり加速できるという目論見もあるわけだ。


◆地場システム販社の自治体戦略

富士通

■地元パートナーとの連携強化図る

 自治体のIT化という点で、和歌山県はセカンドグループ以下にあるという指摘は多い。富士通西日本営業本部関西支社和歌山支店の原戸俊和支店長は、「これに加えて市町村合併の問題で、IT化の歩みが余計に遅くなる懸念がある」と語る。「和歌山県としてはITビジネスモデル地区やIT総合センターなど需要につながる話題が多いが、市町村レベルでは合併問題の影響で低調」という。

 富士通は、地元の紀陽ソフトウェアサービス、市内にIDCをもつサイバーリンクスという有力ベンダーとパートナーシップをもつ。紀陽ソフトは富士通製のハード、ソフトを自治体向けに納入しており、ライバルも「和歌山県の自治体ビジネスでは圧倒的に強い」と認めているほど。

 税と住民基本情報関連では、県内43町村のうち26町村が富士通ユーザーであり、7市のうち5市も押さえている。また、その他アプリケーションでも30町村に入っているという。

 それだけ強いパートナーを持ちながらも、市町村合併の混乱については危機感をもっている。「合併協議会の検討次第ではシステムが間に合うか、という恐れがある」。IT化が進まないことで、情報システム統合への関心が薄いという懸念もありそうだ。

 「全国的にSE(システムエンジニア)が不足すると言われている。和歌山ではパートナーとの関係をより強固にする方向で検討を進めており、何とか混乱を最小限にとどめる」と、合併に対応した体制づくりを急務な課題にあげている。
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