e-Japan最前線

<e-Japan最前線>43.横須賀市のITビジネスモデル地区

2003/05/12 20:43

週刊BCN 2003年05月12日vol.989掲載

 「ITを活用した経済活性化戦略」として総務省が打ち出したITビジネスモデル地区構想。4月、全国8地方公共団体が指定され、各地区がそれぞれの特色を生かして策定した約3か年の推進計画が動き出した。8地区それぞれに推進計画の内容は異なるが、具体事例として首都圏では唯一指定された横須賀市を紹介する。

YRPを核に

 ITビジネスモデル地区には、すでにIT分野の研究機関や企業がある程度集積されている地区も指定された。その代表格が、この欄でも以前に紹介した岐阜県大垣市のソフトピアジャパンと、横須賀市の「横須賀リサーチパーク(YRP)」だろう。横須賀市のITビジネスモデル地区推進計画もまず、このYRPに集積した知的資源を「コラボレーションプラットフォーム」と位置づけ、IT企業を誘致・育成する方針を打ち出している。このほか地域のコミュニティ環境を充実させるため「未来型図書館」の開設、電子自治体の推進に向けてASPやデータセンター機能を備えた「地域IX(インターネット・エクスチェンジ)」の整備を加えた3本柱で、新しいワーク/ライフスタイル「Yoko sukan Style」の実現を目標に掲げている。

 YRPは、NTTが電電公社時代の72年に開設した横須賀通信研究所(現・NTT横須賀研究開発センター)に隣接する約60ヘクタールを造成し、97年に電波・情報通信分野の研究都市としてオープンした。YRPの構想は、88年に総務省(旧郵政省)と横須賀市が中心となって策定され、93年に第3セクターの運営管理会社「横須賀テレコムリサーチパーク」を設立。土地の造成や賃貸ビルの建設は京浜急行電鉄が行い、国や企業の研究機関の集積を図ってきた。

 YRPには、政府系では独立行政法人の通信総合研究所(CRL)の横須賀無線通信研究センター、認可法人の通信・放送機構(TAO)の横須賀ITSリサーチセンター、同成層圏プラットフォームリサーチセンターなどが進出。民間企業では、NTTドコモのR&Dセンター、松下通信YRP研究所、矢崎総業関連のオプトウェーブ研究所、さらに富士通、NECも研究センターを設置。すでに進出企業は約50社に達している。

 さらに01年8月には「横須賀市産官学交流センター」が開設された。大学の研究機関が大学施設の外にも設置できるよう規制緩和されたことを受けて、YRPに大学の研究機関を積極的に誘致するために開設したものだ。これまでに東京工業大学の大山永昭教授研究室、慶応大学次世代ブロードバンド移動通信プロジェクト、中国の北京郵電大学などが進出しているほか、今年3月には東京大学から2つの研究室が入居することが決まり、合計で9大学11研究機関がYRPに集まってきた。

 「産官学のコラボレーションによってITビジネスの活性化を実現できれば、他の自治体でも参考にできるビジネスモデルとなりうる」(吉田努・横須賀市企画調整部参事)。

 一方、未来型図書館と地域IXの具体化はこれからだ。未来型図書館は、総合的な情報提供サービスと多様なコミュニケーションを行う場を市民に提供する「地域情報拠点」とのイメージを、委員会を設置してこれから1年かけてカタチにする。地域IXも、研究開発機関やIT企業の集積が進むのにともなって情報通信インフラとして必要になるとの認識から検討していく。ただ、地域IX構想は全国各地で検討は進んでいるものの苦戦しているケースがほとんど。それだけに、未来型図書館も含めて横須賀市が新しいビジネスモデルの構築に成功できるかどうかが注目される。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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