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<OVER VIEW>ウィンドウズサーバー2003、期待と不安が混在の米市場 Chapter1

2003/05/12 20:44

週刊BCN 2003年05月12日vol.989掲載

 マイクロソフトは2003年4月(国内は6月)に出荷した新サーバー「ウィンドウズサーバー2003」(以下、サーバー2003)に続いて、今年多くのソフト群を発売し、ビジネスITインフラを一新する。マイクロソフト幹部は「新ソフト群の出現で世界のパートナーにエキサイティングな年をプレゼントする」と強気な発言をする。マイクロソフトは新サーバーで堅牢なビジネスインフラを提供し、世界の中堅企業ビジネスソリューション市場に強固な基盤を確立する。同時にLinux普及を阻止し、UNIXサーバー市場へ参入することを狙う。(中野英嗣)

ミッドレンジサーバーの業界標準を狙う

■Linux、UNIXに対抗する世界標準サーバー

 マイクロソフトが03年4月、サーバー2003の出荷を開始し、インテルが期待通りのパフォーマンスを発揮する64ビットプロセッサのItanium(Madison)を出荷すると、世界のミッドレンジサーバー市場に新しい競合が開始される。

 新サーバーOSとインテル高性能CPUの組み合わせは、マイクロソフトにシェア拡大チャンスをもたらす。IDCアナリスト、アル・ジレン氏はサーバー2003の出現について次のように分析する。

 「マイクロソフトにとって、ミッドレンジでシェアを拡大するチャンスであるのは間違いない。しかし一方で、マイクロソフトはUNIX、Linuxの勢いをそぐことにも注力しなければならないと同時に、ウィンドウズはあくまでローエンドアプリケーションに最適なプラットフォームだという市場の共通認識と闘わなければならない」

 また、ニューヨークタイムズは「多くのIT業界幹部は、IT不況を吹き飛ばす役目をマイクロソフトの03年発売の新ソフト群に期待している」と解説した。

 いずれにせよ、多くの米SIerは「新サーバー、新オフィス2003、これに関連するiWaveソフト群がIT投資に火を付ける」ことに大きな期待を抱く。

 マイクロソフト・インフォメーションワーカー・ビジネス・グループ担当のジェフ・レイクス副社長は、「当社は03年に1ダース以上の新ソフト群を発売する。03年は当社が単年度に最も多くの商品群を出現させる記念の年だ。03年に当社はビジネスインフラとデスクトップソフトのすべてを一新する。これはウィンドウズ95とオフィス95出現以来、最大の発表イベントだ」と語る。

 マイクロソフト・ウィンドウズサーバー担当のビル・ベグテ副社長は、「新サーバーOSは中堅企業の中核サーバー、ミッドレンジサーバーの世界標準プラットフォームを狙う野心的商品だ」と前置きして、戦略を次のように語る。

 「新サーバーはウィンドウズサーバーの頂点プラットフォームであると当時に、Linux、ローエンド、ミッドレンジUNIXを駆逐する役割を担う。結果的に当社が一番注力する中堅企業向けMS-CRMなどビジネスソリューションの強固なインフラを提供することになる。同社の新ソフト群出現で、Linuxブームは急速に終焉に向うであろう。それだけ強力なソフト群が当社から発売される」

■2ケタ成長の維持が強制されるマイクロソフト

 パソコンが世界IT業界の牽引力になった90年以降、パソコンD.f.s.(業界実質標準)を握ったマイクロソフト、インテルのWintel2社は、売上高の高い成長率を維持し続けた。しかし、ITバブルが弾けてパソコン市場の低迷が始まった01年以降、インテルは売上高の大幅減少に陥って、03年に入ってもこれが大きく回復する見込みは立っていない。一方、Wintelの一翼であるマイクロソフトは、パソコン低迷にも関わらず2ケタ成長を維持している。

 現在IT不況に苦しむ世界IT有力ベンダーで力強く成長を続けるのはマイクロソフトと、デルのみである。マイクロソフトは自社のソフトライセンス契約を02年、長期契約に変更したこともあって、2ケタ成長を維持している。このライセンス契約変更を、マイクロソフト独占による一方的値上げだと反発する米エンタープライズは多い。さらに、世界的にIT投資は00年をピークに、01年以降は減少し続け、03年春になっても回復への兆しは見えない。

 そのためマイクロソフトの03年の新ソフト出現はタイミングが最悪だと見るウォール街アナリストも多い。しかし、世界で膨大な出荷実績を残したウィンドウズNTサーバーは、それ以降発売されたウィンドウズサーバー2000への期待が小さかったため、そのインストールの約半数はそのまま残っていると、マイクロソフトのワールドワイド・パートナーグループ、アリソン・ワトソン副社長は語る。

 従ってマイクロソフトはNT、サーバー2000のリプレースにまず注力して、出荷を当初から大幅に伸ばせるのも確かだ。そして景気回復、中堅企業へのウェブサービスの普及が進めば、新OSの当初の狙いが徐々に達成できることも見込める。

■今後の成長基盤はビジネスソリューション

 米機関投資家に投資情報を提供する米モルガン・スタンレーは、「これまでのようにマイクロソフトの経営はデスクトップOSやプロダクティビティアプリケーションに依存してはならない。OSやアプリケーションはオープンソース、フリーソフトの影響を受けやすいからだ」と前置きして、「マイクロソフトは本気で世界の中堅企業ビジネスソリューションでIBMと正面衝突する戦略を確立すべきだ」と提言する。

 これは、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOの中堅企業戦略を外部から賛同する見解でもある。マイクロソフトは02年からISV(独立系ソフトベンダー)のグレートプレーンズ、ナビジョンなどの買収を行い、その業務ソフトを販売すると同時に、これらソフトをベースに自社ブランド「MS-CRM」、「MS-ERP」など、業務アプリケーションの品揃えを強化しつつある。しかし、03年3月までの第3四半期決算によると、従来のクライアント、サーバーOS、あるいはオフィスなどインフォメーションワーカーは相変わらず2ケタ成長を続ける。

 さらに、バルマーCEOが注力するビジネスソリューションは新規分野ということもあって、前年比70%以上の成長が見られるが、その売上高はいまだ極めて小さい。これによって同社のディビジョン別売上構成比では、デスクトップ関連が60%以上と大きく、ソリューションはわずか1%台にとどまる。

 マイクロソフトのレイク副社長は、「バルマー戦略を急速に具現化するためには、ミッションクリティカルに耐える堅牢なサーバーOSが必要だ。その役割をサーバー2003に託する。このサーバーシェアが大きくなれば、ビジネスソリューションの売上高は年率100%以上の伸びを示すのは間違いない。また新サーバーは初期に出荷された多数のローエンドウィンドウズのコンソリデーション(統合)も推進し、同社サーバーOSは堅牢なサーバー色になる」と語る。
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