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<OVER VIEW>ウィンドウズサーバー2003、期待と不安が混在の米市場 Chapter3

2003/05/26 16:18

週刊BCN 2003年05月26日vol.991掲載

パートナー、アナリストの期待も分れる

 マイクロソフトの新OS「ウィンドウズサーバー2003」やiWave出現に対し、米国アナリストの見方やマイクロソフトパートナーの期待は積極派と消極派に分れるようだ。マイクロソフトの狙いが、世界ミッドマーケットの中核プラットフォームであり、IBMもこの市場を最重点とする戦略を展開中だ。さらに両社の業務アプリケーション戦略は対照的なこともあって、IBMとマイクロソフトの本格的対決に発展すると考えるアナリストもいる。また、普及し始めるウェブサービスの基幹プラットフォーム標準の争いで、ウィンドウズとLinuxが対決するという見方も浮上する。(中野英嗣)

■サーバーOSとiWaveの密結合で高機能実現

 マイクロソフトのウィンドウズサーバー2003には、同社社内でiWaveと総称する多くのソフト群も同時、あるいは順次発売される(Figure13 A)。

 iWaveソフトの大部分は従来からのソフトのアップグレード版であるが、インフォパス 2003、ワンノート 2003という新ソフトも加わった。

 インフォパスは、XMLの入力フォームを作成したり、そのフォームを使ってデータを入力するツールだ。シェアポイントポータルサーバーはオフィスで作成した文書を管理し、アクティブ・ディレクトリと連携して企業内で共有するためのものだ。ワンノートはメモ用紙のような役割を果たし、文字、画像の入力・編集ツールだ。

 マイクロソフトはサーバー新OSはiWaveとの密結合によって、高い効率性が保証されると強調する。しかし、iWaveソフト群の大部分は時期を追って逐次発売される。

 これらマイクロソフトの新ソフト群に関しては、積極的に評価する声と、否定的意見に、マイクロソフトパートナー、米アナリストの発言は分れる。

 これまでマイクロソフトの新ソフト出現時には、圧倒的にこれに期待する意見が多かった。しかし、IT市場の構造変化やOS主導の業界動向は変化、マイクロソフト新製品への反応も前向き、否定派の二手に分れるようになった。これもWintelの業界支配力に変化があった証と把えることもできるだろう。

■見解が分かれるマイクロソフトパートナー

 マイクロソフトの米パートナーの新OSや関連iWaveに対する期待、そして同社のパートナー戦略に関する評価は、肯定、否定と明確に分れる。

 例えば、同じマイクロソフトのパートナー対象のトレーニング体制や開発状況開示に関しても、全く見方や意見が割れている。

 トレーニングに対しても十分な準備をもってマイクロソフトが対応したという意見がある一方、これに不満を表明するパートナーも多い。情報公開に関しても、十分に対応したという意見と、従来と変わらず不満とする声も強い。例えば、長いことマイクロソフトが予告してきた新ソフト群の「.NETブランド」が消えた理由について、同社の説明が不十分だという声も強い(Figure14、15)。

 また新ソフトの発売が予定より大幅に遅れたことで、世界景気も悪くなってその出現は最悪のタイミングだという意見も強い。マイクロソフトが自社ブランドの業務アプリケーションの品揃え強化についてもパートナー見解は分れる。すべてマイクロソフト製品であることによって、ソフト群の互換性や相性を検証する手間の省けることを評価する声は強い。

 しかし一方で、これでパートナーの利用するソフトすべてが一社から提供されることについての不満、不安の声も強い。とくに世界ミッドマーケット(中堅企業)は、IT投資に積極的な所も多い。この市場を狙ってIBMとマイクロソフトが激突すると米ウォール街は考える。

 その時IBMは、アプリケーションはSAP、シーベルなどISVソフトと自社ウェブスフィアなどミドルウェアの組み合わせで臨む。これに対してマイクロソフトはOSからアプリケーションまでの全レイヤーを自社製品で統一しようとしている。同じミッドマーケットを狙うIBMとマイクロソフトの対照的戦略も、米SIerの大きな関心事である。

■冷静な見方多い米アナリスト

 マイクロソフトの新サーバーOSおよびiWave発売は、同社ウィンドウズ95出現以来の大きなイベントだとの見方で、多くの米アナリストは一致する。

 しかし著名アナリストのバーバラ・ダロウ氏は、「ウィンドウズサーバー2003には、95発売時のような熱気は感じられない」という(Figure16)。

 また、IDCアナリストのアル・ジレン氏は、「企業IT部門は新OSやiWaveに関して当面ウエイト・アンド・シーの姿勢で接し、直ちにこれに乗り換えることはないだろう」と語る(Figure17)。

 ギガ・インフォメーションのロブ・エンダール氏は、「ウィンドウズに対する米エンタープライズの見方は、あくまでローエンドプラットフォームだとの認識が強く、これがミッドマーケット参入を目論むマイクロソフトの最大の強敵になる」と分析する(Figure18)。

 エンダール氏はマイクロソフトがミッドマーケットのミッションクリティカル分野に参入できるためには、ソフトの機能強化だけでなく、インテルやAMDが64ビットの高性能プロセッサをいつ本格出荷できるかにかかっているという(Figure13 B、C)。

 また同氏はサーバーやストレージは単なる大容量、高性能化の争いから、長期間の無障害運用に耐え、しかもIT管理スキルやコストを大幅削減する自律型機能の競合に突入する時代が近づくと解説する。自律型機能ではIBMの「eビジネス・オンデマンド」、サン「N1」、HP「アダプティブ・インフラストラクチャ」、マイクロソフト「ダイナミック・システム・イニシアチブ」、これに日本勢のNEC「Valumo」や富士通などを加えた技術競合がこれから始まる。「その優劣に結着がつくには相当の期間がかかる」とエンダール氏はいう。

 またUNIXサーバーのユーザーは、使用OSに対する固執が強いこと、あるいはこれまでマイクロソフトがエンタープライズ版と銘打ったソフトへの信頼性が低かったことも、同社のミッドマーケット戦略の大きな障壁になるとの見方は強い。

 さらに多くのアナリストは、「これからのOS競合はウィンドウズ対UNIX系」ではなく、UNIX系の「プロプライエタリ対Linux」であることを共通的に指摘する。

 米業界はこれから本格的64ビット時代を迎え、インテル、AMDプロセッサがローエンドからミッドレンジサーバーを狙う時代に、ウィンドウズとLinuxがどのように市場を棲み分けるのか、あるいは真正面から競合するのかに強い興味を示す。

 これら量販サーバーOSのシェアが、普及時代を迎えるウェブサービス基盤を制することにつながると考えられるからだ。
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