e-Japan最前線

<e-Japan最前線>47.アジア・ブロードバンド計画

2003/06/09 16:18

週刊BCN 2003年06月09日vol.993掲載

 来月上旬に正式決定するe-Japan戦略IIには、新たな戦略的視点としてセキュリティ対策と国際戦略の2つが加えられることになった。今年3月に、総務省、外務省、経済産業省などの関係省庁で「アジア・ブロードバンド計画」が策定され、e-Japan戦略IIのなかにも同計画を着実に推進することが明記される見通しだ。日本企業の活動がグローバル化するなかで、e-Japan戦略そのものもグローバル化する必要性が高まっている。

05年度までに重点実施

 「e-Japan戦略には当初、国際的視点が盛り込まれていなかったが、2000年のG8九州・沖縄サミットで、当時の森喜朗総理が、アジア・太平洋地域の重要性を踏まえつつ、国際的デジタルデバイド(情報格差)の解消のために5年間で総額150億ドル程度の包括的協力策を公表するなど、アジアへの取り組みは早い段階からスタートしていた」(田尻信行・総務省総合通信基盤局国際部国際政策課国際広報官)。

 近年、日本企業も製造業を中心に中国などアジア各国に進出するところが急増、アジア内でヒト・モノ・カネ・情報の交流が一段と活発化している。日本国内だけでIT化を推進してももはや十分とはいえない状況だ。政府でも昨年6月のe-Japan重点計画-2002で国際的な取り組みの必要性を盛り込み、総務大臣主催のアジア・ブロードバンド戦略会議を経て、今回具体的な計画がまとまった。

 アジア・ブロードバンド計画は、アジアにおけるブロードバンド環境の整備に向けた行動計画と位置づけられ、2010年を目標年度として「各種公共施設からのアクセスを含めて、アジアの全ての人々がブロードバンドへアクセスできる」など7つの大きな目標を掲げた。さらに、これらの目標を達成するための具体的な施策をまとめ、05年度までに重点実施していくことになった。

 今後はまず、アジア各国に今回策定した計画を説明しながら協力関係を結ぶ作業をスタートさせる。すでに、昨年9月には中国、韓国、日本の3か国の情報通信大臣(日本からは片山虎之助総務大臣)が情報通信分野で協力していくことで合意しており、「人口が多い中国ではアドレス不足の懸念もあって日本が得意としているIPv6技術への関心も高い」(田尻国際広報官)という。さらに、今年1月にはタイ、マレーシアとも協定を結んだ。これらの国に今回の計画を改めて説明するとともに、e-Japan戦略IIでは08年までにアジア10か国以上と協力関係を構築するとしており、さらに協力関係を広げていく必要がある。 問題は、協定が結ばれ、それぞれの国の事情に応じて具体的な施策を決めて実行していく段階で、日本企業がどのように関わっていくかだろう。とくにIT産業にとってアジアのブロードバンド化は、大きなビジネスチャンスであり、政府の施策と連携しながら積極的に取り組んでいく必要がある。7つの目標のなかにも「アジアのネットワークがIPv6を備えたものとなる」、「アジアの主要言語間で実用に耐える機械翻訳技術が開発・実用化される」など日本企業の技術を生かすことができる内容が盛り込まれている。

 また、具体的な施策のなかにも、超高速インターネット衛星「WINDS」の打ち上げや、08年の北京オリンピックにおける大容量映像伝送実験の実施などビックプロジェクトも含まれている。電子政府・電子自治体などのアプリケーション分野でも、これまで蓄えてきたe-Japan関連の技術を生かすチャンスもありそうだ。国内景気の低迷が続くなかで、政府としても中小・ベンチャーを含めて日本企業の海外進出によるビジネス拡大を積極的にサポートしていく必要があると考えられる。経済協力という枠組みのなかで、企業との連携を具体的にどう実現していくか。その仕組みが重要となりそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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