WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第161回 トーバルズ氏本業復帰?

2003/07/14 16:04

週刊BCN 2003年07月14日vol.998掲載

大きな期待抱くLinux陣営


 2003年6月中旬、Linuxカーネル開発者でOS「Linux」の名称も自分の名前からとったリーナス・トーバルス氏が、これまで勤務していた省電力チップメーカー「トランスメタ」を一時休職し、Linux開発の本拠地「オープンソースデベロップメントラボ(OSDL)」にフルタイム出勤することを発表した。この発表タイミングは、SCOによる自社所有のUNIXソースコードをIBMが無断でLinuxに転用したとのIBM告訴後のことであった。

 そのため、トーバルズ氏本業復帰とSCO訴訟には何らかの関係がありそうだと米国の業界ではいろいろ噂も飛び交っている。OSDLはIBM、ヒューレット・パッカード(HP)、NEC、デル、インテルなどが出資し、現在はエンタープライズ向けLinuxの新版「6.2」開発の最終段階にある。OSDLはトーバルズ氏復帰は大歓迎で、同市をラボ初のフェローの称号をもって迎えた。もちろんLinuxコミュニティもトーバルズ氏がLinux開発や普及活動に専念できることに大きな期待を抱く。

 トーバルズ氏もトランスメタに勤務しながら、外部からOSDL開発陣営に技術的アドバイスを与え、Linux開発の方針などについても積極的に関与してきた。また、サーバー市場ではマイクロソフト「ウィンドウズサーバー2003」が発売され、インテルの64ビット新チップ「アイタニウム(マディソン)」も出荷開発され、当市場活性化が期待されている。インテルのアイタニウムサーバーで、64ビットウィンドウズとエンタープライズLinuxの本格的競合も開始された。

 LinuxコミュニティではSCOのIBM訴訟と、SCOがLinuxユーザーへLinux訴訟の影響はあり得るとのレターを送り付けたことで、Linux普及への悪影響も若干危惧していた。「このタイミングでのトーバルズ氏の本業復帰はLinux陣営にとって大きな力になる」とデスクトップLinux開発会社ザンドロズのリック・ベレンスタイン会長は語る。トーバルズ氏自身は、「トランスメタでもLinux開発に携ってきたので、OSDLへ来ても自分の役割は本質的に変わらない。またLinux訴訟のSCOの主張は全く根拠がないが、自分には関係ない」という。

 しかし、Linuxディストリビュータのレッドハットなどだけでなく、Linuxソリューションで売上高を大きく伸ばす多くの米ソリューションプロバイダは、「エンタープライズでLinuxがウィンドウズに勝利できるよう、トーバルズ氏は全力を傾けるだろう。ウィンドウズとの対比でLinuxに弱点があれば、彼は直ちにこれを強化する能力もある」とトーバルズ氏への期待を語る。またHPやデルなどLinuxサーバーでIBMと競合するベンダーは、「LinuxリーダーはIBMだという業界常識が、OSDLのトーバルズ氏復帰で変化することはありがたい」との感想を述べる。SCO訴訟で不安を感じたLinuxユーザーもトーバルズ氏ならばSCO主張を直ちに覆せる論拠をもつことを期待する。
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