WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第164回 米ベンダー、チャネル重視へ

2003/08/04 16:04

週刊BCN 2003年08月04日vol.1001掲載

 2000年後半からのIT不況で最も苦しむのは、米国有力ベンダーである。この環境でなんとか市場プレゼンスを維持するIBM、ヒューレット・パッカード(HP)の共通点は、苦労しながら「ベンダー直販とチャネルの共存共栄」を模索していることだ。不況下でもチャネルに全く依存しないデルのウィンテル市場での独り勝つも目立つ。しかし、デルの躍進の理由はダイレクト販売モデルがハード販売の「ボックスセリング」で大成功しているからだ。ユーザーのITシステム価値を増大するITサービスを含めた市場獲得でデルモデルは成功しているとはいえない。

不況下で生き残る唯一の手立て

 IBMなどのITサービス構成比が50%に近づくなか、デルの同構成は10%程度にとどまっているからだ。米ギガインフォメーショングループのアナリスト、ヨハン・クラトウスキー氏は、「IBMなどによって行われている、パートナーを介して市場需要を獲得する手段は、既に実効が確認された唯一の有効なマーケティング戦術だ」と語る。ダイレクト一辺倒のデル成功と対比されるIBM、HPなどのプレゼンス維持は間違いなく、チャネル政策が着実に効果をあげていることによる。「この中間に位置づけられる、ダイレクト重視かチャネル重視の不明確なベンダーの凋落も目立つ」とクラトウスキー氏は付け加えた。ウォールストリートのアナリストもチャネル重視ベンダーには将来が期待できると評価する。

 モルガンスタンレーのアナリスト、ジョージ・エリソン氏は次のように分析する。「チャネル政策で成功する条件は、その戦略がベンダーのトップ、CEOから強い支持を受けていることだ。チャネル担当がチャネルフレンドリーを口にしても、CEOからの強い指示がなければ、ダイレクト販売部門と協業がうまくいかず、絵に書いた餅に終る」IBM、HPのチャネル政策が根付いたのは、パルミザーノ、フィオリーナ両CEOが心からチャネル重視を重要と考えているからだ。アナリストのクラトウスキー氏は「IBMグローバルサービス(IGS)は直販一筋からチャネル重視へ転換して成功した模範的事例だ」と次のようにいう。

 「90年代初頭までIGSは直販モデルの典型だった。チャネル販売も始めたころには、チャネル経営者はIGSと付き合うのは共産党独裁時代のクレムリンと交渉するようなもので、誰と話してよいかわからず、誰も責任をもって解答してくれなかったと言った。これが、ガースナー氏がIBMトップに就くとチャネルへの姿勢ががらりと変わった。IBM全社員がチャネル重視がトップ方針だと認識したのだ」これまで直販重視を続けたために苦戦したEMC、CAなどもチャネル販売を積極化したことで、業績が上向いてきた。CAは直販からチャネル販売へと急速に舵切りするため次のような極端な社内戦法も採った。「直販担当が受注見込み案件をチャネル経由に変更して受注成功した場合には、セールスに高額な報酬を与える」。こんな社内施策も考えながら、米国ベンダーはこぞってチャネル重視へと転換する。(中野英嗣●文)

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