大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第93話 鉄道の網

2003/08/04 16:18

週刊BCN 2003年08月04日vol.1001掲載

水野博之 立命館大学客員教授

 大分、横道にそれたようだ。もう1度、蒸気機関車の話に帰ることにしよう。スティーブンソンの成功はまさに時を得たものであった。1783年、独立に成功し、1861年に始まり65年に終わった南北戦争によって、国の近代化に向けて走り出した米国にとって最大の悩みは、この広大な国土を如何にして統一するか、ということであった。現在のように通信が発達している時代ではない。ワシントンの中央政府が考えたことは、この広い米国の地に鉄道の網(現在でいうところのネットワーク)をつくり人々の往来を盛んにして、人々の意志疎通(コミュニケーション)をはかろうということであった。

 まさに鉄道の時代がやって来たのだ。米国政府はこのような鉄道敷設を奨励するためにいろいろな施策を行ったのである。鉄道は米国の花形産業になったのだ。大陸横断鉄道が企画され、人々はその成功のために熱中した。はっきりいって、それは英国の猫の額のような狭いところを走る話とはまるでてんから違っていたのだ。

 気の遠くなるような長い距離を走らなくてはならなかった。その土地のなかには砂漠あり、山あり、谷あり酷暑あり厳寒あり、まことに予断を許さない条件がそろっていたのだ。

 なかでも先住民のインディアンは自分たちの土地への侵略者たちのツールとしての鉄道に大いなる反感をもっていて、これをしばしば襲撃した。これらの条件を克服するために、鉄道機関車には飛躍的性能の向上が求められたのであった。鉄道は最大のハイテク、かつ成長産業となり人々の注目するところとなったのである。後にスタンフォード大学を設立するスタンフォードもその1人であったし、ウェスチング・ハウス社を設立したウェスチング・ハウスもまたその1人であった。米国の時代が来ようとしていた。(高知・鏡川河原にて)
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