沖縄県の財政基盤を「3K」という。1つは「交付金」、そして「観光」、残る1つは「基地」である。産業もこれら3Kに依存している。ほかの県と大きく異なるこの特殊性は、地域の情報化という面にも現れてくる。そして沖縄県の情報化を阻んできた最大の要因は、「南北約1000キロメートル、東西約400キロメートルにわたって点在する離島の問題」(赤嶺哲雄・沖縄県企画開発部情報政策課長)だ。「e-island」を標榜しIT関連産業の誘致に熱心な沖縄県だが、電子自治体構築という目標を達成するために、遅れていた地域情報網を完成し、本格的にIT化に乗り出している。(川井直樹)

さまざまな通信手段を動員して情報ネットワーク構築
 那覇市、IT産業振興と市民のスキルアップを支援

■急ピッチで進む電子県庁構築

 広大な面積に離島が点在するという地理的な制約は、沖縄県の地域イントラネット構築を阻んできた。しかし、電子自治体構築には高速ネットワークの整備は不可欠。そこで防災無線のためのインフラや既存の通信回線を活用するだけでなく、自設の海底ケーブル、衛星回線、MCA(マルチチャンネルアクセス)無線など、可能な限りの通信ネットワークを動員して、2000年度から02年度までの事業計画を実施。今年4月から「沖縄県総合行政情報通信ネットワーク」として運用開始した。

 他県ならば、陸続きでしかも民間通信事業者からの借り上げで低コストで広範囲なネットワーク構築ができるが、沖縄県の離島は人口が少ないうえに、南大東村、北大東村のように遙か南海の島々まで、採算が期待できない高速回線を敷設する事業者はない。そのため、ほとんど自治体自身が事業を負わなければならない。

 今回の行政ネットワーク構築の事業費は約85億円。NECと沖電気工業、地元のコーヨーデンシの3社連合が担当した。使用する通信手段がバラエティに富むだけではない。「台風銀座にあたるため、無線局などは風速90メートルに耐えるように設計されている」(米須清光・沖縄県企画開発部情報政策課地域情報推進班主幹)と、沖縄の地理的条件がコストを押し上げる要因になる。

 離島間のネットワークで回線を何本も引くことは、それだけコスト増になる。そのために住民基本台帳ネットワークシステム、総合行政ネットワーク(LG WAN)、県内の防災情報も行政ネットワークも、1つの回線を多重化する形でシェアして活用している。

 また、沖縄本島と宮古島間の海底ケーブルは、テレビの難視聴地域解消のための政府事業を活用した。しかも、南・北大東村のように、衛星回線でしか結ばれない地域も出てくるのも仕方のないところ。ようやく今年4月から運用開始した沖縄県の総合行政ネットワークだが、県の出先機関との間で「それほど頻繁ではないが」(米須主幹)というテレビ会議や教育ネットワークなどの活用が始まり、「やっと情報通信網という点で県が一体化できた」(赤嶺課長)。

 情報網整備が図られたことで、電子県庁構築も急ピッチで進められている。職員へのパソコン配備は早く、98年度に那覇市にある県庁内の職員への配備を完了。01年度までに出先機関の職員を含め1人1台体制となった。

 県庁内のシステムとしては、すでに予算編成システムを02年11月にサーバー系に移行。執行系システムも再構築を進めており、「03年度の決算終了後までは予算執行システムのメインフレームは残るが、それ以降は使用しない」(新城清・情報政策課電子県庁推進班主幹)と、財務会計システム全般でサーバー系への移行を進めている。

 さらに、電子申請システムについては、国の基本仕様を踏まえて県庁版システムを開発しており、02年度にプロトタイプシステムなどの1次開発、03年度には本システム開発などの2次開発に着手。今年度からは文書管理システムの開発にも乗り出した。

■沖縄県全体を「e-island」に

 文書管理システムの開発では、那覇市も急ピッチで整備を進めている。「財政が厳しく昨年度に導入する予定が1年延びた」(上江洲正美・那覇市経営企画部情報政策課長)というが、今年度の予定では「10月にはテストを開始し、来年度初めから本格運用」(同)と遅れを取り戻すような勢いだ。

 県の文書管理システムは富士電機と地元企業を中心としたコンソーシアムが獲得し、那覇市の文書管理システムはNECと地元企業のグループが受注している。「地元企業を前面に出さないと事業の受注は難しい」(中村省一・富士通沖縄支店長)とともに、「地域重視という点では、ほかの地域以上では」(山科俊治・NEC沖縄支店長)というのも特殊ならば、余談ながら両社を含めて企業の沖縄支店の多くが、九州管内ではなく関東もしくは本社直轄というのも特徴的。

 沖縄にIT産業を誘致する計画も活発に進められている。沖縄県全体を「e-island」と位置づけるなかで、コールセンターの誘致に成功してきた。しかし、これは有利な通信基盤の提供と沖縄県の安い労働力を生かした、産業の誘致でしかない。地元のメディア関係者によれば、「沖縄県外に出ていても、いずれは帰ってくるというのが県民性。しかし、大規模な製造業がないなど、それだけの職場がない」というのが実情だ。

 那覇市では、市内の新都心地区にIT産業のインキュベーション施設として「IT創造館」を今年度に開設。6月1日から地元ITベンチャーが3年の期限付きで入居を始めた。

 「運営は県の機関である沖縄県産業振興公社が委託されている」(仲松睦夫・那覇市IT創造館館長)という組織で、「PRの期間は短かったが、すでにオフィススペースは一杯」(宮城實・那覇市経済観光部商工振興課主査)と、県内のIT起業のニーズは高いという。

 また、地元大学生を採用する中核企業も集め、人材開発とともに技術の地元定着も図る。「IT創造館」はIT産業を育成するだけではない。インターネットカフェを併設し、市民のITスキル向上にも貢献していこうという狙いもある。「館内では電子マネーを使って飲食もできるようにした」と、岡田良・那覇市IT創造館インキュベーションマネージャーは、市民がITと親しむ施設という点をアピールする。

 電子自治体構築という政策のなかで、どうしても取り残されるのが住民のITスキルの問題。那覇市はIT化計画「あったかネット那覇21プラン」のなかで、安価に誰でもITを使える仕組みづくりに取り組んでいる。

 その1つがケーブルテレビの活用であったり、NPO(民間非営利組織)が主体となって行っている廃棄パソコンのリユースであったり、インターネット上で誰でもどんなことでも相談できるような「電子ゆんたく広場」の開設など一連の市民IT参加の場の提供だ。

 ネット上で井戸端会議をするようなイメージの電子ゆんたく広場は、さまざまな専門家もエージェントとして参加し、市民の質問や悩みに答える。

 沖縄の方言で言うならば、「おじいでもおばあでも使えるように」(佐々木一肇・那覇市経営企画部情報政策課主事)という電子行政サービスの姿を当然と考えている。


◆地場システム販社の自治体戦略

リウコム

■自治体需要に期待

 地元のIT産業にとって、大規模な民間企業が少ない沖縄県で事業拡大を図るには、自治体の電子化は重要な市場だ。

 「観光は大規模ホテル建設など順調だが、SARSの影響など懸念する材料もあった」と、琉球銀行系システムインテグレータ、リウコムの饒平名(よへな)知寛常務は、景気低迷で伸び悩む民間需要に比べ、電子自治体構築をにらんだ需要に期待する。

 さらに、「これからは行政事務のアウトソーシングも必要になってくる」として、沖縄県情報サービス産業協会でもIDC(インターネットデータセンター)構築などを提言しているのだという。その反応について聞いてみると、少し顔を曇らせながらも、「情報化のスピードは速まっているが…」と、沖縄県や各市町村の方針を誘導するためにも地元企業が率先してIT化の提案をしていかなければならないと強調する。

 饒平名常務は、沖縄の企業ながら「北海道のIT企業やベンチャーとの付き合いを深めている」と笑う。北と南、距離も離れており、ずいぶん環境も違いそうだが、「産学官の連携や、地元企業が地域情報化に積極的なところなど参考になる」としており、やがて北海道と沖縄のIT企業でアウトソーシング連携などに発展する可能性も出てくるかもしれない。e-Japanの世の中では当たり前のことだろう。