世界的2大ベンダーのIBM、HPは主力戦略を中堅・小企業に絞り、次々と新しいパートナー戦略を打ち出している。HPは合併以前からコンパックコンピュータを含めて直販とチャネル間の顧客争奪が問題だと指摘されており、今後もこの是正に向けて各種の戦略を策定している。一方IBMは、直販とパートナーの市場区分を早く行ったことで、HPのような問題はなくなった。しかし、IBMチャネルでは、IBMグローバルサービスとパートナーの協業ルールが不明確だとの指摘が強い。このためIBMは実効ある協業ルールづくりを急いでいる。(中野英嗣)

IBMとHPのチャネル戦略

photo■相手を強く意識、世界市場を2分するIBMとHP

 2003年春のパートナー会議で、HPのカーリー・フィオリーナ会長は、世界市場で激しく競合するIBMを次のように、口調強く批判した。

 「IBMは何でも自社の都合でユーザーを振り回わす。HPはソリューションプロバイダ(SP)との親密な関係をもってIBMを打倒する。既にHPはIBMを打倒するだけの十分な技術力を貯えた。

 これに対し、IBMのサム・パルミザーノ会長の右腕、オンデマンド戦略担当GMのアービング・ダラウスキーバーガー氏は、「HPの当社批難は、まるで往年の打撃王ルー・ゲーリックを否定するようなものだ。それだけHPはIBMを脅威と感じている証だ」と反論した。

photo 世界の中堅・中小企業(SMB)を巡って、IBMとHPの競合は激しさを増している。とくに米国ではHPの力は強く、その売上高はIBMに迫っている。さらに米国はSMB向けのチャネル販売高はHPがIBMを大きく上回っている(Figure7)。

 それは、HPがプリンタやコンパック買収によってパソコンなどのチャネル量販商品でIBMを圧倒しているからだ(Figure8)。

 IBMとHPのSMB向けの商品戦略には大きな差異がある。HPは自社チップのPA-RISC、Alphaのフェーズアウト計画を発表し、これまでより一層ウィンテル製品依存度を高めつつある。

photo また、今後の重要なミドルウェアのアプリケーションサーバーでも、自社ソフトでなくBEAのウェブロジックを重視する。このようにHPはITシステムを構成する階層要素(スタック)をほとんどサードベンダーに依存する水平分散型ベンダーの典型だ。

 これに対し、IBMはインテルサーバーも扱うが、その主力OSとしてLinuxを採用する。さらにプロセッサ、ミドルウェアも自社製品重点策をとる垂直統合型ベンダーである。

 米国ではマイクロソフト新サーバーOS「ウィンドウズサーバー2003」に対するSPの期待度は大きく割れており、これを積極的に販売するSP比率は40%弱だ(Figure9)。

photo しかし、ここにHPのパートナーが集中していると、米CRNは分析する。HPはIBMよりパートナー依存度が高いが、米国SPのベンダー満足度でHPは常に業界平均を下回り、逆にIBMはチャネルから高い評価を受けている(Figure10)。

 それはHPがコンパックを買収する以前から、両社ともベンダーとパートナーの客奪い合いが激しく、合併後もこの行動は目立つ。一方IBMは、01年から米国ではIBM直販とパートナー市場をユーザー企業規模で明確に分けた。これから世界で期待される市場は大企業でなくSMBだ。このため、IBM、HPともによりパートナーと共存共栄するチャネル戦略を打ち出し、チャネルの囲い込みを強化する。

■パートナーとの競合排除に力を入れるHP

 01年秋のコンパックコンピュータ買収発表以後、合併に至る紆余曲折でHPのチャネル政策は大きく揺れ続けた。合併前はコンパック、HPはともにベンダーとのテリトリー分割が明確でなかったため、ベンダー直販とパートナー間の争いが絶えず、パートナーの不満がうっ積していた。

 また、HPが合併後に新チャネル戦略を発表しても、それまで企業への直販が主体であったコンパック・パソコンのチャネル取り扱いが明確にならず、新HPに対してもチャネル批判は高まっていた。

photo 02年5月に合併手続きが完了し、その主力市場がSMBと定められてからは、新しいパートナープログラム「PartnerOne」が決定した。ここでは米国の約900社をHP直販市場として、その他はオープンテリトリーとされた。さらに当チャネル契約では、HPからの特別仕切率が適用されるプラチナ、ゴールドのハードルが高く、全米2万社のHPパートナーのうち、この恩典を受けられるのはわずか400社に過ぎなかった。このため03年6月、プラチナ、ゴールドの他に、SMB専業の中小パートナー向けに「SMB Network」という制度が加えられ、直ちに米国1000社のパートナーが参加した(Figure11)。

 さらにHPは、直販指定の大企業も徐々にパートナーも活動できるオープンテリトリーへ移し始めた。しかし合併前、ベンダー直販が顧客としていた層をチャネルへ渡すのには社内反対も強く、この移行に当たってHP幹部は苦労していると伝えられている。

■パートナーとの実効ある協業を目指すIBM

photo IBMは世界の有力ベンダーのなかで最も早くSMB市場の重要性を認識して、自社直販とパートナー市場を明確に分けてきた。IBMはわが国でも企業従業員数をもって市場区分を行った。区分によって直販とチャネル客争奪は見られないが、そこでのIBMグローバルサービスとチャネルの実効ある具体的協業ルールが不明確であるという不満が高まってきた。そこでIBMは03年6月、(1)パートナーとの協業原則の制定、(2)世界的にパートナー代言者を配置する、という2つのチャネル政策を追加した(Figure12)。

 協業原則では、これまでIBM直販ユーザーもできるだけパートナーに引き渡す策や、パートナー開拓新顧客は、これが永久にパートナーユーザーであることをIBMが保証することなどが盛り込まれた。

 また、パートナー代言者は全世界のテリトリーごとに配置され、主としてIBM直販部門がルールを遵守しているかを監視する。ルール違反があった場合は代言者が全面解決できる権限も与えられる。

 テリトリー区分けを早く行ったことで、現在、「IBMは最もチャネルフレンドリー」という認識が世界で定着しつつある。

 しかしこれまでIBMは世界的に大企業指向が強く、製品価格も高く、関連商品のパッケージ化も遅れている。従ってIBMはSMB向け製品の品揃えと価格政策の見直しを迫られている。

 IBMは03年1-6月、IT不況のなかで売上高が前年同期比2ケタ増を記録し、不況からいち早く脱出できるベンダーとの期待も高まっている。これに関し、同社のパルミザーノ会長は、「当社はSMB市場進出が成功しているので業績が向上した」とコメントし、今後もパートナー協業を含めてSMB市場戦略をさらに強化する姿勢を打ち出した。