WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第166回 高額なITスタッフ報酬

2003/08/25 16:04

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

 多くの米大企業は90年代後半にネットバブルに躍らされたこともあって、巨額のIT投資を続けた。バブルの弾けとともに、各大企業のIT資産は過剰となったため、2000年をピークに、毎年IT投資額は減少し続けている。フォレスター・リサーチによると、02年米大企業投資はピーク時の00年に比べ28%も減少した。このようなIT投資削減のなかで大企業経営者の頭を悩ませているのが、ITスタッフ数を削減できないこと、及びスタッフ報酬が高止まりのままだということだ。

IT投資削減の課題

 90年代後半からのIT投資領域は、主として大企業の数あるアプリケーションの統合(エンタープライズ・アプリケーション・インテグレーション、EAI)と、関連企業とのシステム連携強化だった。EAIやシステム連携は短期間では完成しない。しかも予算削減で、それらの新システム移行時期にも大幅なズレが生じている。多くのシステムが完成していないので、ITスタッフを削減することができない。しかも90年代後半からITスタッフ不足によって報酬は上昇し、これが不況となってもカットできないのだ。

 大企業のIT予算が減り続けるなかでも、優秀なスタッフは不足し続けており、人件費をカットできる状況にはないという、経営者にとって頭痛の種となった。さらに米大企業は、わが国のようにIT部門の分離による子会社化政策を全く採ってこなかった。このため米大企業では数千人単位の膨大な数のITスタッフを擁する企業は珍しくない。大所では航空機のボーイングのITスタッフは6000人、金融のシティグループ5000人、兵器宇宙産業のロッキード・マーチン4800人、量販店のウォルマート4500人という具合だ。

 ITスタッフ人材不足といっても、最も不足が深刻なのはシニアやミドルのマネジメント層でなく、若いラインスタッフ層だ。CIOやチーフアーキテクトと呼ばれるシニアマネジメントは若干の人材余りの状態、ミドルは若干の人材不足、そしてラインは不足が極めて深刻という状況だ。このため、シニア層報酬は高止まりのままだが、ミドル層、ライン層は報酬相場が上がり続けている。このためシニア層と、ミドル、ライン層の平均報酬が急速に接近し始めた。

 90年代初頭には米大企業のITスタッフ報酬はシニア層平均を100とした時、ミドル層は60、ライン層は40というのが一般的だった。この報酬の差が、ミドル、ライン層の上昇によって縮まってしまい、この傾向は今後も続きそうだ。03年3月、米CIOフォーラムの調査によると、シニア平均は11万ドル(1320万円)、ミドル平均8万2000ドル(984万円)、ライン平均7万1000ドル(852万円)である。これはシニア層を100とすると、ミドル74、ライン64という指数になる。ITスタッフ報酬の上昇はITのTCO(所有総経費)の削減が難しい状況にあることを物語る。ROI(投資対効果)追求とTCO削減はIT部門の大きな課題であるが、この実現が困難なのだ。(中野英嗣●文)

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