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<OVER VIEW>世界のIT業界、中堅・小企業開拓が最大の課題に Chapter3

2003/08/25 16:18

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

 マイクロソフトはこれまでのOSやオフィスなどの専業ベンダーから脱し、中堅・小企業対象のCRM、ERPなどミッションクリティカル業務市場へと本格的に参入した。同社はアプリケーションまでを「MS」ブランドに統一し、ユーザー囲い込みを強化する。そこでは自社ミドルウェアとサードベンダーソフトの統合戦略を進めるIBMと激しく競合する。さらにマイクロソフトは、これまで量販指向だった多数の伝統的パートナーと、利益率指向のソリューションパートナーの融合という課題を背負う。(中野英嗣)

マイクロソフト、ソリューション事業参入への課題

■マイクロソフトとIBMがSMBで激突

 2003年1-6月、IBMの売上高は前年同期比で11%と大きく伸びた。IBMはこの理由について次のように説明する。「コンサルティング企業のPwCコンサルティング買収で、企業ビジネスのモデル転換を支援するコンサル事業売上高の前年同期比は66%増、世界SMB(中堅小企業)売上高が同17%増となり、これがIBMの成長軌道への復帰を後押しした」。

 02年までIBM全売上高に占めるSMB構成は20%だったが、03年前半期にこれが23%まで上昇した。IBMグローバル・ビジネス・パートナー担当マイケル・ボーマン副社長は、「IBMはSMB重点戦略の成功が大きな要因となって、増収増益ムードが高まった。しかし、当社のサム・パルミザーノCEOは、このSMB市場比率を30%まで早急に高め、エンタープライズ市場に次いで世界のSMBでもIBMの独走体制を固めよと、われわれに檄をとばす」と語り、世界のパートナー関係強化戦略を今後も次々と打ち出す姿勢を明確にした。

photo 一方、マイクロソフトもこれまでのOSやオフィス製品に加えて、SMB向けの「MSブランド」のCRMなどアプリケーションを欧米市場に投入し始めた。今後はMS-CRMに続いてERP、SCMなども投入する。これまでマイクロソフトにはこのようなソリューションビジネスはなかった。01年からこの事業が開始され、このセグメント情報が同社決算書にも明記されるようになった。いずれにしても世界有力ベンダーが一斉に力を入れるSMB市場は大きく伸び始めた。ここではIBMとヒューレット・パッカード(HP)などハードベンダー間の競合が目につく。

photo しかし、多くの米アナリストは、「世界のSMB市場で真の覇権争いを演じるのはIBMとマイクロソフトだ」と口を揃える。今やこの両社は研究開発費も際立って巨額で、その額も拮抗する(Figure13)。

 また、世界のミドルウェアやコラボレーションソフトでは、この両社がそれぞれ大きなシェアを獲得し競合を激化させている(Figure14)。

■マイクロソフト、ソリューションでもユーザー囲い込みを

photo ウィンテル路線でIBMと競合するのはHPである。しかし、HP戦略を支えるIT各分野の要素技術での真の競合は「IBMとマイクロソフト対決」といえる(Figure15)。

 とくにこの両社は、SMBを狙うアプリケーション戦略で対照的な戦法をとる。マイクロソフトは従来戦略通りに、OSのプラットフォームからアプリケーションもMSブランドで統一し、アプリケーションを含めて囲い込みを強化する。これに対するIBMは、データベースやアプリケーションサーバーなどミドルウェアはIBMブランドで基盤を確立するが、アプリケーションはシーベル、SAP、J.D.エドワーズなど有力サードベンダーパッケージに全面依存する。さらにウェブサービスフレームワークでIBMはJavaベースでのオープンスタンダードであるのに対し、マイクロソフトは自社アーキテクチャの「.Netフレームワーク」という対照的戦法だ。

 さらにマイクロソフトはアプリケーションでもOSやオフィスと同じようにユーザーのシート数が増えるに従って価格が大きく上昇し、自社の利益押し上げに直結する価格体系を採った(Figure16)。

photo 例えばMS-CRMスタンダード版の米国価格では基本料金が995ドルで1シート当たりのランセンス料が395ドルだ。これで、10シートの場合の価格合計4945ドルの80%はシート数比例費だ。このようなマイクロソフトの自社利益重点のアプリケーション価格体系には、米国のソリューションプロバイダ(SP)の多くは強く警戒する。SPのイリノイネットワークのジョン・ソロモン社長は次のようにいう。

 「MS-CRMの価格思想は量販型OSやオフィスと全く同じだ。アプリケーションはカスタマイズをともない、SPは高マージンを必要とする。マイクロソフトがこの分野でパートナーとどのように利益配分するのかに関し、多くのSP経営者は注目している。OSなどのように自社利益重点は採らないと期待したい」

■ボリューム指向、利益率指向、2系統パートナーの融合に課題

photo マイクロソフトの売上高に占める割合はクライアント関連が60%強、サーバー関連が22%だ(Figure17 B)。

 CRMなどソリューション売上高は80%以上の大きな伸びを示すものの、全体に占める割合はまだ1%台だ(Figure17 A)。

 同社がSMB向けソリューションに注力すれば、今後この比率は当然大きくなる。しかし、同社はここに「2系統チャネルの効率的融合」という大きな課題を欧米市場では背負うことになった。マイクロソフトにはOSやオフィスを長らく扱ってきた伝統的マイクロソフトリセーラ(MR)が存在する。これにソリューションビジネス参入で、マイクロソフトに買収されたソフト会社が抱えていたマイクロソフトビジネスソリューション(MBS)パートナーが加わり、この2系統パートナーの融合戦略が求められることになった。

 しかし、MRがボリューム指向であるのに対し、MBSパートナーはアプリケーションのカスタマイズを中心に高粗利益を追求するという企業文化にも大きな差異がある(Figure18)。

photo またMBSパートナーは欧米で6000社であるのに対し、MRは米国だけで25万社という膨大な数だ。さらに、パソコン市場の低迷やソフトの低価格化もあって、MRもソリューションを手掛け始めた。この2系統チャネル融合で問題点を指摘するのはいずれもMBSパートナーである。

 その1社のトップは匿名で次のように問題点を整理した。「MRは企業内需要をまとめる購買担当者との接点を大事にし、マイクロソフトと交した数量コミットをこなすことだけに力を入れる。ソフト値引きも常とう手段で、業務アプリケーションも熟知していない。彼らがわれわれMBSパートナーと同じアプリケーションで競合するとなると、信用の土台であった業務知識、ユーザー満足度の向上という大切なものを、数の文化で破ってしまう恐れが大きい」

 これまでMBSパートナーのなかった市場でも、欧米と類似した課題の発生は十分に想定される。膨大なパートナーをソリューション重点へ転換させるのはマイクロソフトにとっても容易なことではない。
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