大航海時代

<大航海時代>第22篇●新しき勇者たちへ 第95話 アントレプレナー

2003/08/25 16:18

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

水野博之 立命館大学客員教授

 新しい仕事は現実のヒントから始まる。ウェスチングハウスのヒントは、遠くアルプスにあった。アルプスのトンネルの穴あけに空気が使われているとは!!空気は地球上あらゆるところにある。この空気を使って長い車輌を一気に止めることはできないか?蒸気機関車における画期的発明といわれる「エアーブレーキ」は、こうして生まれたのである。

 ウェスチングハウスは、この発明をきっかけに世界的企業ウェスチングハウス社をつくりあげるわけだ。「うまいことやったなあ!!」と皆さんは思われるかもしれないが、話はそんなに簡単ではない。ウェスチングハウスのこの発明について、人々は「空気で汽車を止める?冗談だろう」と相手にしなかったのである。特に鉄道関係の人の反発は大変なものであった。

 大きな事故が起きる度に人々はため息をついたのであったが、その嘆きが深いだけに改革には慎重であったのだ。あらゆる改革は大なり小なり既成のシステムから反撃を受けるものである。松下幸之助の二又ソケットも石橋正二郎の地下足袋も最初から簡単に世間に受け入れられたわけではない。発明者の熱意が世の中の認識を変えたのである。それは今から考えると不思議なほどのものである。

 発明、もっとひろく言えば、すべての新しいやり方(これをシュンペーターはイノベーションと呼んだことはすでに何度もふれた)は、そのまま受け入れられることはまずない、といってよいであろう。「思いつく」ことと、これを「断固やる」という2つが行われないと、発明は世に現れないのである。「思いつく人」はあるいはたくさんいるかもしれない。しかし、これを「断固としてやる人」は少ない。この点、発明の成功には「行動」が必要条件なのである。この「行動者」こそアントレプレナーなのだ。(足摺岬・万次郎像の前で)
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