WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第168回 IBMの恐竜「T-Rex」人気

2003/09/08 16:04

週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載

 IBMが2003年5月、世界で発売した恐竜「T-Rex(レックス)」の名を付けた次世代メインフレーム「z990」が、米国エンタープライズで極めて高い人気だ。新メインフレームは、業界よりもユーザーで大きな話題となっている。90年代初め、反メインフレーム派のヒューレット・パッカード(HP)、サンは「メインフレームは恐竜のように近いうちに死滅する」との説を喧伝した。

競合メーカー、皮肉にも打撃

 しかし、大方の予想に反してメインフレームは滅亡するどころか、MIPS値ベースで年々出荷を大きく伸ばしてきた。但し、メインフレームの価格破壊はパソコンやIAサーバーよりはるかに激しいので、MIPS値ベース出荷の大きな伸びにも拘らず、その出荷金額や台数は年々大きく減少した。しかし、米フォレスターリサーチ調査によれば日米欧大企業のトランザクションの85%は相変らずメインフレームで処理されている。

 ウォールストリートジャーナルも、「競合メーカーが指摘した恐竜名を付けてIBMが『z990』を発表したのは、彼らに対して強力な皮肉となって、彼らの上位サーバーも大きな打撃を受ける」と論評した。同ジャーナルは「恐竜は滅びたが、その後継の鳥達は今でも世界中を飛び回っているのと同様、次世代メインフレームブームも当分、大企業センターに君臨するだろう」と解説した。

 eビジネス時代となって企業の中核サーバーはダウンを許されなくなった。「z990」はIBMが誇示するオートノミック(自律型)コンピューティング機能が実装され、その平均故障発生間隔(MTBF)は50年と想定されている。「z990」は処理量増加を自動的に予測し、予備プロセッサをオンにしたり、障害発生が予想される場合には余備プロセッサへの自動切り替えが行われるなど、オートノミック機能がフル活躍する。

 またその処理性能は1日当たり最大130億トランザクションと、世界的大金融機関の処理スパイクにも十二分に対応可能だ。また「z990」は、例えば数千台のLinuxサーバー群を、大型冷蔵庫1台の大きさにコンソリデーション(統合)でき、設置スペース、電力代、サーバー管理者を大幅に削減し、TCO(所有総経費)を大きく減少させる。

 IBMは、z990はフォーチュン1000クラスの大企業には必須の中核サーバーと位置づける。IBMは「z990」引き合いが多く、生産が間に合わず納期長期化でユーザーに迷惑をかけていると謝罪に忙しいようだ。ある米大手百貨店のCIOは匿名で次のように語った。「わが社は約1500台のウィンドウズサーバーがあり、店のバックヤードはケーブルジャングルで、しかも常時30台以上の故障が発生している。わが社はウィンドウズをLinuxに切り替える作業をほぼ完了しているので、一気に『z990』1台にコンソリデートすることを決定した。節減できる電力、スペース代管理者コストは巨額であり、これを販売キャンペーン費用として活用する。当社CEOもこのIT部門のコンソリデート計画を即刻承認した」(中野英嗣●文)

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